コラム

欧米社会がこだわる「言論の自由」の本質

2015年01月13日(火)11時51分

 アメリカにはそのような特殊事情がありますが、ではクルーニーに代表されるようなアメリカの左派、そしてフランスのオランド政権も左派ですが、欧米の左派は一般的にどうして「他宗教への侮辱とも取れるような風刺漫画」を含む言論の自由にこだわるのでしょうか?

 欧米でもイスラム圏でもない第三者、例えばアジアの視点からは、欧米の左派というのは「横柄だ」とか「これでは文化圏同士の摩擦を煽るだけ」という見方が出てきます。

 なぜ彼らは「風刺雑誌社」に連帯を表明するのでしょうか? そこにはキリスト教圏が歩んできた「宗教と世俗」の長い対立構図があります。例えば、現在では当たり前の「カトリックの聖職者への風刺」というのは、中世までは命がけだったわけです。

 あらゆる日常生活を宗教権力が統制する中から、まず宗教改革の動きがあり、やがて教会一致(エキュメリズム=カトリックとプロテスタントの和解)の運動を通じて、カトリックも文化や社会生活に関する自由化に踏み込んでいきました。

 そのような長い歴史の中で、言論の自由というのは「いかに宗教的権威から自由になるのか」という厳しい戦いを通じて獲得されたという理解がされています。この宗教的権威から言論の自由を守るという発想法は、欧米の文化の根っこの部分に深く突き刺さった問題なのです。

 今回の事件は、まさにこの宗教的動機による世俗表現への弾圧に他ならず、その宗教というのがカトリックでもプロテスタントでもイスラムでも全く同じだという発想法があるのです。

 クルーニーの「連帯表明」には、そうした意味合いがあると同時に、このような「欧州など他の大陸のトラブル」に関して「自分に影響がない限りは我関せず」というアメリカ保守派の「孤立主義」に対する抗議とも受け取れます。

 オバマ政権はこうした動きを受けて、次のフランスでの反テロ行動には、「しかるべき政府高官」を派遣するという方針を明らかにしています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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