コラム

「不人気オバマ」を日本の民主党政権と比較する

2014年10月30日(木)13時53分

 政治家が選挙の時に掲げた公約を任期中に実現して責任を全うできるとしたら、こんなに楽な話はありません。ですが、現代の政治家はそんな「安全運転」では済みません。突発的な事態、誰も予想しなかった事態に遭遇して、公約していない判断、選挙の時点では民意を確認していなかった判断を迫られることが往々にしてあるからです。

 ではそれ以外の、つまり公約して民意を確認したとか、政治家の「政治信念」ないしは「イデオロギー」に則って判断すれば良い問題、あるいはそうした思想的な立ち位置そのものに関して言えば、政治家は公約した「立場」通りに行動できるのでしょうか?

 必ずしもそうではありません。

 ここにオバマの「不人気」の要因があります。大変なブームを起こして当選してから6年、現在のオバマ大統領の支持率は「40%前後」という低空飛行になっていますが、その原因は公約通りの政治ができなかったところにあります。

 では、これは同時期に日本で起きた政権交代による、鳩山政権や菅政権、野田政権という日本の民主党政権の「不人気」と同じなのでしょうか?

 私はまったく違うと思います。

 まず、日本の「民主党政権の失敗」は、その思想的立ち位置をしっかり宣言しなかったところに問題があります。政権就任前には「供給側の利害ではなく消費者の利害」という軸があったはずですが、この点を徹底できませんでした。また「目先の景気よりも長期的な財政規律」という勇ましい理想論もありましたが、その「痛み」を引き受ける覚悟に欠けていました。更に「対中テンションの軽減とセットの在沖米軍基地削減」という志向もありましたが、これを相手にしっかり告げる勇気に欠けていました。さらには、排出ガス削減という大目標もありましたが、震災後の原子力エネルギーへの忌避感の中で修正も徹底もできなくなりました。

 ということで、政策の設計から実行に至るまで、思想の軸が通っていなかったために、統治能力のなさが露呈すると共に民心が離反したわけです。

 オバマの場合は違います。

 オバマは「自分の思想的なポジション」は明確にしながら、「対立を回避する」という現実的なアプローチ、つまり必要な妥協はするし、政敵である共和党と和解して政治を進めるということも言っていました。つまり「理想は掲げるが現実も重視する」ということです。

 ですが、これが上手くいかなかったのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏の政権復帰に市場は楽観的、関税政策の先行

ワールド

フーシ派、イスラエル関連船舶のみを標的に ガザ停戦

ビジネス

高関税は消費者負担増のリスク、イケア運営会社トップ

ワールド

「永遠に残る化学物質」、EUが使用禁止計画 消費者
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 8
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story