コラム

「国産ジェット開発」はなぜこんなに遅れたのか?

2014年10月23日(木)12時01分

 では、どうして70年代初頭の日本の民間企業連合は、YXを立ち上げられなかったのでしょうか?

 問題は資金調達だった、そう考えるのが一番説明として適切だと思います。それも普通の資金ではなく、長期でしかもリスクを引き受けるような資金を引っ張ってくることができなかった、この点に尽きると思います。

 当時すでに世界第二の経済大国だった日本で資金を集められなかったのには、2つの理由があると思います。

 1つは、現在もそうですが、日本の個人金融資産や、株の持ち合いなどによる法人の金融資産においては、「リスク分散」という発想が薄いことが挙げられます。リスクの高いものと、低いものをミックスしてトータルでリターンを取るという発想法が普及しておらず、リスクのある長期資金がなかなか回らなかったのだと思います。

 もう1つは、国際的な市場で厳格な契約に基づいて資金調達をするノウハウに欠けていたのだと思います。例えば最近の話題ですと、日本のスカイマークがエアバスのA380を15機発注しておきながら、キャンセル条項の適用を受けてしまいました。キャンセルの理由は、エアバス側から見て、スカイマークの財務内容が劣化して契約条件に抵触したからです。その際のスカイマーク側の違約金も高額となりました。

 これはエアバスが「がめつい」からではありません。A380という一機300億円(ただし価格は契約により変動)のモノを大量に受注、製造するには、エアバスはリスクを分散しながら資金調達をしなくてはならず、その際の融資のシンジケート団との契約や、出資者との契約に厳密な条件が書いてあるのだと思います。

 航空機の開発や製造には、そうした長期や短期の資金をグローバルな世界から調達しなくてはなりません。航空機を作る技術と同じような緻密さで、相手と丁々発止の交渉をしながら分厚い契約書案を詰めていく、資金調達とはそういう作業の積み重ねです。日本の企業も70年代から80年代以降は、必死に国際化を模索していますが、特に国際的なファイナンスという面では遅れを取っています。

 日本国内にリスクを取った長期のカネがなく、世界からカネを引っ張ってくる技術も足りなかった――。航空機製造に40年の空白を作り、今もリージョナル機「しか」手がけることができない背景には、そうした事情があると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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