コラム

ウクライナ東部、旅客機撃墜を取り巻く複雑な状況

2014年07月18日(金)11時56分

 一方で、ロイター通信がロシアのインタファクス通信の解説として伝えたところでは、墜落機とほとんど同じ航路を、プーチン大統領を乗せた大統領専用機のIL(イリューシン)96型が約37分後に通過しているというのです。ブラジルのW杯決勝観戦、およびBRICSサミットからの帰途ということです。このIL96は、ロシア製の比較的新しいジェットで、ボーイング777に外見は似ています。

 事件の数時間後にオバマ大統領はプーチン大統領と電話会談しています。会談は事前に予定されていたものだというのですが、その中で今回の事件に関する意見交換があったと報じられています。また、その直後にオバマ大統領はデラウェア州で演説したのですが、「大変な悲劇が起きた」という表現にとどめていました。

 なおウクライナ政府は「これは親ロシアの『テロリスト』の犯行であり、ロシアの将校と『テロリスト』が携帯電話で航空機攻撃に関する会話をしているのを、我々は傍受している」としています。その上で「我々の攻撃の結果ではない」と主張しています。

 とりあえず本稿の時点で発表されている、事実関係の概略は以上です。

 では、真相はどうだったのか? 現時点の報道で出てきているのは次の2つの「説」です。

 地対空ミサイルの攻撃であったとして、親ロシアの「分離主義者」が発射したのであれば、14日に撃墜したウクライナの輸送機とボーイング777を誤認した結果という可能性が指摘されています。「ブーク」システムというのは、マッハ4で飛翔するミサイルを高度2万メートルの高空のターゲットに命中させることが出来る精巧なものですが、ターゲットを捕捉するまでの索敵でミスをすれば、そのまま誤爆になってしまうわけで、「素人」同様の活動家が誤って操作したことは十分にあるという「解説」がされています。

 その一方で、ウクライナ側が発射したとなれば、プーチンの乗った専用機を狙った可能性という陰謀論も出ています。仮にロイター電が示唆するように「プーチン専用機撃墜未遂」というストーリーがあるとしたら、プーチンとオバマが電話会談をしたということが即座に発表されたことは、プーチンが自分の無事を国際社会に対して宣言するのに、アメリカは協力した格好になります。

 なお誰もが思った3月の事件の関連ということでは、現時点では特にこの2つの事件を結びつけるストーリーはありません。あくまで偶然にマレーシア航空が2度の悲劇に襲われたという理解がされています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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