コラム

国境に押し寄せる、不法移民の子供たちの波

2014年07月10日(木)12時58分

 ですから、共和党としては現状に対して別段に冷酷であるわけではありません。何らかの解決をしなくてはいけないことは分かった上で、「オバマ叩き」の材料になるのなら、ということで色々文句を言っているわけです。

 ちなみに、この問題とは別に「アメリカに来て年月の経過した不法移民の合法化」という問題については、一時は与野党合意が成立しかけました。ところが、共和党側のキーパーソンだったカンター下院院内総務が、先月の予備選で落選してしまい、次の中間選挙に出馬できなくなったことで、見通しは消えてしまっていました。これに加えて、今回の「子供の亡命者があふれる」という問題で、すっかりこの「移民問題の解決」は宙に浮いた形になっています。

 オバマ政権としては「元から断たねばダメ」ということで、バイデン副大統領がホンジュラスなど問題の国々を訪問して協議をしています。「安易に移民受け入れをしてもらえる」というような「デマ」の払拭につとめる一方で、麻薬マフィアの暗躍を抑えるよう各国首脳に依頼して回ったのですが、効果の程はわかりません。

 そんな中、7月9日には、この問題をペリー知事と協議するために、オバマ大統領はテキサスに来ました。ですが、報道によれば問題の「国境地帯」を視察することは止めたようです。

 抜本的な解決策のない問題だけに、「可哀相な子供たちとオバマ」などという写真を撮られてそれがメディアに流れると、その映像が契機となって何らかの「いい方向」が見えてくる可能性は薄いわけです。その意味で現場へ行かないという判断は理解できるのですが、そうした姿勢も「叩こうと思えば叩ける」わけで、オバマの苦悩は深まるばかりといった状況です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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