コラム

アーミテージ氏と櫻井よしこ氏に異議あり!

2014年03月04日(火)11時33分

 危険性というのは簡単な問題です。「借金や親の承諾のない女性を強制連行」したのは誤りで、「管理売春制度の下で継父に売られた女性」を「置屋の財産権を保障」するために、あるいは「戦場での統制」を確保するために「逃亡を官憲が阻止した」というのが事実だとします。その「前者」は誤りで「後者」が正当だという証明を行うことが、「現在の日本国の名誉回復」にはならないということです。

 このブログで何度もお話しているのですが、安倍政権も櫻井氏もこの非常に基本的な点に気付いていない、これは大変に問題だと思います。こうした誤解を抱えたままで、それこそ「狭義の強制はなかった」などという言い方で「河野談話」を変更するようなことがあっては、前回の靖国参拝や、ダボス発言とは比べ物にならないインパクトで、日本の国益は毀損される危険性があるのです。とにかく、冷静になって考えていただきたいと思います。

 実は、私は櫻井氏と公開形式の討論という形でご一緒したことがあります。詳しくはその際のエントリをご覧頂きたいのですが、私は「現在の日本の国体は浄化されているのだから、今の世代の日本人が例えば中国人から歴史の問題で挑発を受けても現在形でのケンカを買って相手の術中にはまるのではなく、ケンカは買うべきではない」あるいは「その姿勢が、昭和天皇や、戦犯遺族の残した『沈黙の継承』ということであり、戦後の日本人の誠実な歩みによって成された『国体の浄化』を守ってゆくということだ」という論理で、歴史認識の修正に疑問を呈したのです。

 その際に櫻井氏からは「同意はしませんが、お気持ちは分かります」と理解していただいたこと、そして何よりも礼儀正しく知的な佇まいには今でも好感を持っています。日本の世代間格差についてどう考えるかをお尋ねしたところ、「高齢の世代が寛容さを見せて譲歩をする必要があります」と仰っていたのも、凛として印象的でした。

 冒頭のアーミテージ氏の発言に関しては、「あなたに言われる筋合いはない」というのが正直な感想ですが、あのアーミテージ氏にしてこのような発言が出るというのは、事態が深刻化している証左と思います。安倍政権は、とりあえずウクライナ問題でG7との歩調を合わせましたが、それに安心することなく日米のコミュニケーション正常化に努めてもらいたいものです。櫻井氏も、何かに取り憑かれたようにイデオロギーに執着するのではなく、冷静に凛として論理を修正していだけないものでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story