コラム

米民主党が「反日」という誤解

2014年01月21日(火)10時47分

 一方で、オバマ政権は中国の不透明な軍事的拡張に対して明確な懸念を表明し、更にはエスカレーションの目立つ南シナ海での中国海軍の活動に対して「航行の自由」を主張する、その延長上で東シナ海における中国艦艇の活動にも、日本との連携で抑止力行使の立場を明確にしているわけです。

 更に世界全体を俯瞰したアメリカの軍事戦略という面で考えると、共和党の政策としては、イラク、アフガンなどの中東から中央アジアにおける影響力維持を依然として再重点課題にしているわけです。その一方で、オバマ政権は明確にアジアの戦略的な重要性を認識するという新しい方針にシフトしているわけで、この点から考えると、日米関係を緊密化して中国の台頭に対するバランスを確保するという政策を強く推進しているのはオバマ政権であって、共和党ではないという指摘が可能です。

 萩生田氏としては、2001年の小泉純一郎首相(当時)が現職総理として靖国神社に参拝した際にはブッシュ政権は「文句を言わなかった」一方で、今回のオバマ政権は「文句を言った」ことが気に入らないのかもしれません。

 ですが、2001年当時には米中には現在のような緊張はなかったのです。海南島事件に決着を見た後は、米中は接近の過程にあったからです。ですから、日米同盟を緊密にして中国に対して「スキを見せないようにしよう」などと思い詰める必要はありませんでした。日中関係についても、その後の「政冷経熱」という言葉が象徴するように、全体としては現在よりもずっと良好でした。そうした環境の中で、ブッシュ政権としては小泉首相の「戦没者への慰霊」という言い方にあえて反発する必要はなかったのです。

 安倍首相が参拝した13年末という時点では、情勢は一変しています。日中関係は非常に悪く、日韓関係までもが自由陣営の仲間とは思えないような悪化を見せています。そのような中で、安倍首相の行動が、アジアにおける日中韓の関係を「無用なまでに悪化させ」ると同時に、「中国がまるで第二次大戦での戦勝国の正義をタダで横取り」するような口実すら与えてしまったわけです。

 アメリカの駐日大使館、ならびに国務省の「失望」という発言は、そうした状況の変化の中で出てきたものであって、民主党政権だからというのは誤解も甚だしいと思います。

 もっと言えば、現在の共和党の新世代は「オバマのやっている反中国政策」には冷ややかです。仮に、2016年にヒラリーなどの民主党が負けて、ティーパーティー系などの共和党の新世代がホワイトハウスを掌握するようになれば、「衰退する日本」は徐々に切り捨てて、「無駄に中国を敵視することで生じるコスト」を削減にかかる可能性が相当にあると見ておかねばなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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