コラム

36時間後に迫った大統領選、開票速報のチェックポイント

2012年11月05日(月)11時36分

 ハリケーン「サンディ」の被害は、状況が分かるにつれて更に深刻であることが判明しています。私の住むエリアでは5日間停電した後に電気が通じましたが、近隣でもまだまだ停電が続いているところがあります。広域に停電を起こしているところではガソリン不足も起きていますし、被害の甚大な沿岸部では、まだ水の引かない地域もあります。

 ニューヨークの被害も大きく、例えばニューヨーク市でも、ダウンタウン、ブルックリン、クイーンズ、スタッテン島では、かなり長期にわたって停電が続いた地区があり、現在でも完全には復旧していません。そんな中、4日に予定されていたニューヨーク・マラソンは「巨大な発電機を並べてイベントをするぐらいなら、停電地域への配慮をするべき」という世論に押されて中止になりました。

 一方で、大統領選の投票開始までは36時間を切っており、選挙は終盤の大詰めを迎えています。このニュージャージーでも既に停電地域の投票所については変更がアナウンスされていますし、開票体制にもメドが立ったということで、予定通りに6日の投開票がされることになっています。

 では、最終段階における全国の情勢はどうなっているのでしょうか? とりあえず日本時間7日の開票速報を見る上でのチェックポイントを確認しておきたいと思います。

(1)このハリケーン「サンディ」の影響は軽微だと思います。仮にロムニー優勢が伝えられるバージニアでオバマが勝ったとしたら、多少この影響があるかもしれませんが、それ以外は大勢に影響はないでしょう。

(2)オハイオは分かりません。基本的にはオバマリードで来ていますし、自動車産業救済を批判したロムニーに対するネガティブ・キャンペーンは効いているようです。ただ、最後の最後でジワジワとロムニーが世論調査の数字を伸ばしており、仮にここをロムニーが取れば大変なことになります。

(3)もう1つ、ここへ来て注目されているのがペンシルベニアです。基本的にはここもオバマ優勢で来ているのですが、最後に来てロムニーが支持を伸ばしています。この州は選挙人数で20という大きな州であり、ここがロムニーに行くようですとオハイオ抜きでも勝機が出てきます。本稿の時点でもロムニーは同州の東部で大集会を開いており、もしかしたらという可能性もあるようです。

(4)先週の金曜日には10月の失業率が発表になり、7.9%という「ものすごく良くはないが、悪化というほどでもない」数字が出ました。市場は多少下げましたが安定しています。この数字ですが、選挙戦の終盤に与える影響としてはニュートラルというところでしょうか。

(5)当確の予想時刻ですが、いわゆる「スイングステート」では僅差の戦いが続いているので、中部から西部のコロラド、ネバダまで票が開かないと結果が見えない可能性があります。少なくともアイオワあたりまでは見ないと、当確はないでしょう。というより、そもそもオハイオ、ペンシルベニア、フロリダ、バージニアなども僅差で推移して、各州の勝敗確定も遅れそうです。最短でも東部時間の午前零時、日本時間の7日午後2時を回ることになりそうです。

(6)両候補の表情ですが、ここへ来て「最後の追い込み」的な動きはしているのです。ですが、2人共どこか「達観」したようなところがあり、どちらが「敗北宣言」をしても似合うようなムードがあります。そう見えるというのは、結局のところは世界観の衝突というようなことではなく、中道実務家として「どっちが上か」という冷静な選択の選挙になったということだと思います。

(7)最後に1つだけ懸念材料があるとしたら「再集計」という泥仕合になる危険性です。オハイオは「接戦の伝統」があるので大丈夫かもしれませんし、フロリダは2000年の経験で懲りているので問題はないでしょう。可能性があるとしたら、東部が多少ハリケーンの影響を受けているペンシルベニア、同じく全州で雨の被害が出ているバージニアでしょう。ハリケーンの影響で集計に影響が出たというようなことで、結果が余りに僅差だと、負けた方が黙っていない可能性があります。ニュージャージーは恐らくは相当の差でオバマになりそうなので、共和党知事でも難癖をつけるのは難しいように思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story