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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
単純なスキャンダルだけではないオリンパス問題
カメラ・医療機器の中堅メーカーであるオリンパスは、マイケル・ウッドフォード前社長の解任を巡って揺れているようです。クビになったウッドフォード前社長によれば「過去のM&Aなどで不明朗な支出があり、菊川剛会長らの辞任を求めたところ、解任された」と述べた(朝日新聞電子版)ようで、これに対し、オリンパス側は解任理由は「経営手法をめぐる違い」としているというのです。
様々な報道を総合しますと、同社を巡っては過去の企業買収において、様々な「疑惑」があるようです。具体的には、2008年に英国の医療機器メーカーのジャイラスを買収した際に、買収総額約2100億円(当時のレートによる)の36%を投資アドバイザーに払っていたとか、その他の日本企業3社の買収においても、買う価値があったのか疑問
な案件だったというような点です。
報道によれば、ウッドワード氏は、こうした問題を社長の立場から「告発」しようとして解任されたという見方があり、仮にそうであれば深刻な権力闘争があったことが予想されます。確かに買収総額の36%がアドバイザーに払われたというのは、異常な数字です。
例えばですが、当時の経営陣が「悪質な投資顧問会社に騙された」か「企業の利益とは相反する形での癒着があった」もしくは「何らかの脅しに屈して国際的な取引で相当の金額を提供せざるを得なくなった」というような「事件性」の可能性を排除することはできないと思います。
少なくとも、ウッドワード氏は、英国の当局に同社英法人の行動に関しての告発を行っているというのですから、全く穏やかではありません。
ですが、こうした事件性に関してはあくまで憶測の域を出ることはできないように思います。一方で、このオリンパスの事件は、多くの日本企業にとって決して「人ごと」ではないように思うのです。
というのは、菊川会長派の主張する「文化の違い」というのは、実は本当に存在するからです。それは国際財務報告基準(IFRS)の問題です。現在、日本の上場企業には、財務関係の報告書をこのIFRSによって発表することが近い将来に義務づけられることになっています。ですが、現時点では日本の企業経営は必ずしもこの国際基準に則してはいません。
今回問題になっている企業買収後の「価値」については、この日本基準と国際基準が「その精神において」大きく異なっているのです。まず、企業を買った場合に、買われた企業は自社の一部になるのでその資産内容を詳しく評価することになるわけです。ところで、企業を買う場合は相当のプレミアムを乗せて買収することが多いので、買った値段(+アドバイザーのコスト)は、保有資産の額よりは高くなります。
その差額は「のれん代」つまり企業のブランド価値ということになるわけです。日本式の算定では、この「のれん代」というのは帳簿上の価値に対して具体的な資産はないので、順次償却してゆく、つまり「損」を積み上げて行って最終的にはゼロにしてゆくことになります。一方で、国際基準では償却は必要ありませんが、その代わりに買った企業ないしそのブランドの価値が明らかに減った場合は、時価でその評価をして減った分は損にしなくてはなりません。
大ざっぱに言えば、ある企業を買った場合に、その買われた会社は「煮て食っても焼いて食っても」いいというのが日本式、逆に「食べずにおいておくが、価値が減ったら正確に評価する」のが国際基準ということになります。
今回のオリンパスの問題には、この日本的な「買ったんだから食べてしまっていい」という感覚が非常に濃厚にあるように思います。IFRSによる「常に市場価格の公正な評価を受ける」というカルチャーとはそこに大きな違いがあるわけです。
ちなみに、制度としては日本の場合、二転三転した挙げ句に現在のところは「償却はしない」ということになっています。ですが、その時その時の換金価値としての評価を受けることの意味を前向きに理解している経営者は少ないと思います。また、菊川会長派の立場としては、制度が二転三転して振り回された、つまり自分たちは被害者という理解をしている可能性もあります。
仮に事件性があるにしても、ないにしても、今回のオリンパスの問題を考える際には、背後にはこのIFRSの問題があるということを意識した方が良いと考えます。
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