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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
WBC第三回大会に漂う暗雲、事態は相当に深刻なのではないか?
創設以来2回の大会を日本が連覇したWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)と言えば、2年後の2013年に第三回が開催されることが決まっています。ですが、この大会、現時点では開催が危ぶまれているのです。
日本での報道によれば、日本側、特に日本のプロ野球選手会が金銭的な条件で難色を示しているとか、読売の渡辺会長が「アメリカの帝国主義に屈するな」というセリフで、日本側の強気な交渉姿勢を応援しているなど、そもそも不公平な条件設定になっているのが問題という印象を受けます。
この主張ですが、具体的にはWBCの大会を後援する日本のスポンサーからの収入が、一旦アメリカ側の母体(メジャーリーグ連盟と選手会の出資した会社という形態)に入り、収益が出た場合には改めて分配される点が問題視されています。
例えば、サッカーの日本代表などの場合は、日本のスポンサーからの収入は日本のサッカー連盟に入るわけですが、それと比較するとWBCの場合はおかしいと言われれば、何となく選手会やナベツネ氏の主張が正しいようにも思えてきます。
ですが、WBCにおけるジャパンマネーと、サッカーW杯におけるジャパンマネーの位置づけは全く違います。サッカーの場合は、事実上全世界が参加した巨大な経済圏が大会を支えているわけで、その中でのジャパンマネーの比率は無視できる水準です。ですが、WBCは違います。日本の後援スポンサーからの収入や放映権料がなければ、大会の費用も出ないのだと思います。
ということは、ジャパンマネーを主体とした日本が中心の大会をアメリカ側がやってくれている構図という理解も可能なわけです。そこを日本からの収入は全部日本で受け取るということにしたら、大会の経営基盤は瓦解してしまうのではないかと思われます。
勿論、当初アメリカのメジャーには、メジャーリーグの主に放映権の販売市場として、日本や韓国だけでなく中国や中南米の新しい市場を開拓するという戦略的な目的も、このWBCにはあったようです。ですが、北京五輪以降の野球国際化のスローダウンや、リーマン・ショック以来の全世界の不況という状況下、カネをかけてWBCをやり、野球の国際化を進めても「元が取れるかは怪しい」状況になっているものと思われます。
ということは、ますますジャパンマネーに頼るしかないわけで、そこを「全部寄こせ」という日本プロ野球選手会の主張は、これに全く相反することになるわけです。
新井会長(阪神)以下の選手会は、そうした事情が分かっているのでしょうか? 分かっていたとして、日本が降りればWBCは瓦解するから相手が折れるだろうと考えているのならば、それは甘いと思います。アメリカ側としては、2回の大会の実績から見て、別に大会を止めても構わないと思っているかもしれないからです。
事実、アメリカではWBCに出場したために、故障したり選手生命が危うくなったりしたケースがかなりあり、大会自体への野球ファン全体の関心も今一つであることから、日本以上に「止めても良い」という立場がホンネの部分には相当にあるように思います。
四大スポーツの一角を占めるNBA(プロ・バスケットボール)が、条件交渉の決裂でシーズン当初の2週間が当面キャンセルされることになりましたが、長引く不況はスポーツ界にも暗い影を落としています。赤字になるようであれば、WBCを続ける動機も余裕もMLBにはないと思うのです。
とにかく、このまま交渉が決裂して大会が瓦解するようなことになると、日本のイメージとしては「勝ち逃げ」というマイナスなものになる可能性があります。また、アメリカ側として恐らくは止めてもいいと思っている大会を「まんまと日本を悪者にして」中止することが可能になってしまう、そうした見方もできます。
それ以前の問題として、中止となれば、世界中で一番WBCを楽しみにしている日本の野球ファンの期待を裏切ることになるのではないでしょうか。厳しい経済情勢の中でも何とか大会を続け、中身のあるものにし、その上で日本が勝ち続けるために、今はカネの問題で文句を言っている場合ではないと思うのです。
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