コラム

WBC第三回大会に漂う暗雲、事態は相当に深刻なのではないか?

2011年10月12日(水)12時23分

 創設以来2回の大会を日本が連覇したWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)と言えば、2年後の2013年に第三回が開催されることが決まっています。ですが、この大会、現時点では開催が危ぶまれているのです。

 日本での報道によれば、日本側、特に日本のプロ野球選手会が金銭的な条件で難色を示しているとか、読売の渡辺会長が「アメリカの帝国主義に屈するな」というセリフで、日本側の強気な交渉姿勢を応援しているなど、そもそも不公平な条件設定になっているのが問題という印象を受けます。

 この主張ですが、具体的にはWBCの大会を後援する日本のスポンサーからの収入が、一旦アメリカ側の母体(メジャーリーグ連盟と選手会の出資した会社という形態)に入り、収益が出た場合には改めて分配される点が問題視されています。

 例えば、サッカーの日本代表などの場合は、日本のスポンサーからの収入は日本のサッカー連盟に入るわけですが、それと比較するとWBCの場合はおかしいと言われれば、何となく選手会やナベツネ氏の主張が正しいようにも思えてきます。

 ですが、WBCにおけるジャパンマネーと、サッカーW杯におけるジャパンマネーの位置づけは全く違います。サッカーの場合は、事実上全世界が参加した巨大な経済圏が大会を支えているわけで、その中でのジャパンマネーの比率は無視できる水準です。ですが、WBCは違います。日本の後援スポンサーからの収入や放映権料がなければ、大会の費用も出ないのだと思います。

 ということは、ジャパンマネーを主体とした日本が中心の大会をアメリカ側がやってくれている構図という理解も可能なわけです。そこを日本からの収入は全部日本で受け取るということにしたら、大会の経営基盤は瓦解してしまうのではないかと思われます。

 勿論、当初アメリカのメジャーには、メジャーリーグの主に放映権の販売市場として、日本や韓国だけでなく中国や中南米の新しい市場を開拓するという戦略的な目的も、このWBCにはあったようです。ですが、北京五輪以降の野球国際化のスローダウンや、リーマン・ショック以来の全世界の不況という状況下、カネをかけてWBCをやり、野球の国際化を進めても「元が取れるかは怪しい」状況になっているものと思われます。

 ということは、ますますジャパンマネーに頼るしかないわけで、そこを「全部寄こせ」という日本プロ野球選手会の主張は、これに全く相反することになるわけです。

 新井会長(阪神)以下の選手会は、そうした事情が分かっているのでしょうか? 分かっていたとして、日本が降りればWBCは瓦解するから相手が折れるだろうと考えているのならば、それは甘いと思います。アメリカ側としては、2回の大会の実績から見て、別に大会を止めても構わないと思っているかもしれないからです。

 事実、アメリカではWBCに出場したために、故障したり選手生命が危うくなったりしたケースがかなりあり、大会自体への野球ファン全体の関心も今一つであることから、日本以上に「止めても良い」という立場がホンネの部分には相当にあるように思います。

 四大スポーツの一角を占めるNBA(プロ・バスケットボール)が、条件交渉の決裂でシーズン当初の2週間が当面キャンセルされることになりましたが、長引く不況はスポーツ界にも暗い影を落としています。赤字になるようであれば、WBCを続ける動機も余裕もMLBにはないと思うのです。

 とにかく、このまま交渉が決裂して大会が瓦解するようなことになると、日本のイメージとしては「勝ち逃げ」というマイナスなものになる可能性があります。また、アメリカ側として恐らくは止めてもいいと思っている大会を「まんまと日本を悪者にして」中止することが可能になってしまう、そうした見方もできます。

 それ以前の問題として、中止となれば、世界中で一番WBCを楽しみにしている日本の野球ファンの期待を裏切ることになるのではないでしょうか。厳しい経済情勢の中でも何とか大会を続け、中身のあるものにし、その上で日本が勝ち続けるために、今はカネの問題で文句を言っている場合ではないと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物7%急落、約3年ぶり安値で清算 中国が報復

ビジネス

トランプ氏、TikTok米事業売却期限をさらに75

ビジネス

パウエルFRB議長、早期退任改めて否定 「任期全う

ワールド

グリーンランドはデンマーク領であること望まず=米国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 3
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 4
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 5
    大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍…
  • 6
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    地球の自転で発電する方法が実証される──「究極のク…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    4分の3が未知の「海の底」には何がある? NASAと仏…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story