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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
「花火禁止」の規制緩和は実現するのか?
7月4日は「ジュライ・フォース(独立記念日)」の祝日で、今年は3連休になったことから、アメリカの各地では花火大会が盛況だったようです。私も今年は家族でプリンストン町の花火見物にでかけましたが、何ともノンビリした花火で、いかにもアメリカの田舎の夏という風情でした。
そんな花火大会でも、結構な人出でごった返すというのには、1つ理由があります。というのは、ここニュージャージー州というのは「花火禁止州」なのです。とにかく、打ち上げ式は勿論のこと、手に持ってやる子供向けの花火にしても、日本の線香花火や火をつける形式の「クラッカー」にしても、販売、所持、使用のすべてが一切禁止なのです。
アメリカというのは地方自治が徹底していて、日常生活に関わる法律のほとんどは各州や、場合によっては各郡ごとに異なっているのですが、この花火に関して言えば、全米で4州(ニュージャージー、ニューヨーク、デラウェア、マサチューセッツ)だけ、完全禁止を貫いている州があるのです。
理由としては、火災の危険とか、銃声と混同される治安上の問題、花火を分解すると爆弾の材料になる危険、そしてそれ以前の問題として、正月や独立記念日に「無秩序に花火でバカ騒ぎをされる」のを防止したいという判断が、過去のある時点でされたのだと思います。とにかく個人での花火は禁止なので、市町村の開催する「公式の花火大会」が唯一のチャンスということになるわけです。
そうは言っても夏の暑い晩に、戸外での夕涼みには花火はつきもので、若者のグループなどは禁止されても花火をやりたがるわけです。そうした「ニーズ」に応えるために、例えば「禁止州」のニュージャージーの隣のペンシルベニアなどでは、州境に近い場所では堂々と「州内最後の花火店」などという看板を掲げて、越境してくるニュージャージーの消費者に花火を売っていたりするのです。
この春に、ニュージャージーからペンシルベニアへ入り、その丘陵地帯を北上してニューヨーク州の西部へ抜ける旅行をしたのですが、面白いのは「禁止州」のニュージャージーからペンシルベニアへ入ったばかりの「州境」だけでなく、ペンシルベニアから別の「禁止州」のニューヨーク州に抜ける直前の高速のインターにも「ペンシルベニア最後のインター(エグジット)、花火購入はここで!」などという看板があって、花火屋が何軒も営業しているという光景です。
さて、当然こうした「越境販売」に対して例えば禁止州のニュージャージー政府は怒っており、最近では大規模な訴訟を起こして一応勝訴しています。判決の結果として、こうした「州境の花火屋」では店の内外に「ニュージャージーへの持ち込みを目的とした購入は違法」という掲示をさせられているそうなのですが、依然として「州境の花火屋」が繁盛しているという背景には、花火の密輸が後を絶たない現状があるのだと思います。
ただ、他の州は分かりませんが、ニュージャージーの場合は、自州で禁止している物品が密輸で入って来ることへの警戒心というのは、基本的に「銃規制賛成派」の心情であって、この「花火の全面禁止」という政策も基本的に民主党カルチャーだったりするのです。
その点を踏まえてかは知りませんが、先週のニューヨーク・タイムズには「花火規制、税収落ち込みの原因として見直す自治体が増加」という内容の記事が出ていました。全米の各地で昨今の地方自治体の財政難に対して「花火を許可して、その代わりに税収を確保する」という動きが出てきているという長めのレポートなのですが、規制緩和とか花火のドンパチ賛成という意味では共和党カルチャーですが、増税という点では民主党カルチャーとも言えるわけで、今後、ニューヨーク、ニュージャージーの禁止州では「花火規制」がどうなるか興味深いところではあります。
今年は、中西部でひどい山火事が頻発していますが、この地方で花火を禁止するという動きが出ないのは、共和党カルチャーのせいかしれません。(ちなみに、心配されたロスアラモスの原子力研究所周辺の山火事は鎮火しつつあるそうです)
それはともかく、基本的に、地方自治体毎に政策にバラつきがあり、多様性が存在しているというのは悪いことではないように思います。日本でも、地方自治を進めるのであれば、例えば規制緩和を進める地方があっても良いですし、逆に規制をかける地方があっても良いように思います。
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