コラム

共和党の女性候補大量進出、その背景は?

2010年07月19日(月)12時12分

(編集部からのお知らせ:このブログの過去のエントリーが加筆して掲載されている冷泉彰彦さんの著書『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』〔阪急コミュニケーションズ〕が発売されています。全国の書店でご購入ください)

 3日毎に世論の風が大きく変わったという日本の参院選ですが、アメリカの選挙は確立した二大政党制の下で、もっと理詰めの論戦がされているのかというと、決してそうでもないのです。例えば、残り4カ月を切った中間選挙ですが、漠然と共和党有利が囁かれている中で、主要な選挙区、あるいは主要な知事選では、共和党の女性候補が目立っているのです。この欄で何度かお話ししたように、主要なところでも、
(カリフォルニア州知事候補)メグ・ウィットマン
(サウスカロライナ州知事候補)ニキ・ヘイリー
(上院議員候補、カリフォルニア州)カーリー・フィオリーナ
(上院議員候補、ネバダ州)シャロン・アングル
では、どうして「女性」なのか? そこには様々な理由があるように思います。

 1つは、前回2008年の大統領選の影響です。まず共和党の副大統領候補としてサラ・ペイリンが話題を提供し、敗北の後も「ティーパーティー」グループのシンボルとなっている、その存在感が、様々な女性候補の登場を促したと言えるでしょう。また、相手方の民主党でも、オバマ大統領とギリギリまで予備選レースを戦ったヒラリー・クリントン現国務長官の印象は濃いものがあります。ヒラリーが一旦は獲得した分厚い中道女性票をそのまま「いただく」には女性候補というのはテクニカルな戦術として十分にあり得るのです。

 ヒラリーに関しては、そのリベラルな立ち位置(現在の国務長官職では完全に中道実務家に徹していますが)にはアンチも多いのですが、例えば、共和党支持層の票にとってヒラリーの「アンチ」は「保守の男性政治家」という選択にはそのまま行かないようです。女性が女性の代表をワシントンに、あるいは各州の知事公舎に送りたい、その思いは共和党支持の女性の中でも強くなったのだと思います。その背景に、ペイリンがあり、裏返しのシンボルとしてのヒラリーがあるわけです。

 もう1つは、「出直し選挙」的なムードです。サウスカロライナの知事選は、現職のサンフォード知事(共和)が不倫失踪スキャンダルで政治生命を絶たれた(罷免は逃れていますが)後を受けて、「スキャンダラスな男性」の後には女性候補が清新という効果を狙ったという点があります。このケースは、日本で言えば、大阪府の横山元知事から太田前知事への政変などの事例と同様です。カリフォルニアの場合は、現職のシュワルツェネッガー知事は「女性スキャンダル」こそありませんでしたが、危機の続く州財政の改革という点ではダメだったわけで、その「出直し」には実業家、しかも女性なら期待できるということだと思います。

 女性が候補者として「華やかな見栄え」がするという点も否定できません。例えば、ヒラリー・クリントンの場合は、オバマとの予備選で攻勢に出るたびに、オバマ陣営から「ヒラリーの戦術にはセクシズム(女性としての魅力を強調しすぎ)」という批判がされたものでした。民主党の場合は、そのようなリベラルな「理屈」を振り回す種類の人が多いわけで、彼等としては、ヒラリーが華やかな衣装を取り替えたり、あるいはアクセサリでアクセントをつけるなどの「手法」を取ることへの抵抗感があったのです。

 ただ、逆に共和党の場合はそうした「アンチ・セクシズム」とか「ジェンダー論」みたいな視点はほとんど無いので「魅力的な女性が候補として華やかであれば、それで良いじゃないか」ということになるのだと思います。もっと「ザックバラン」に言えば、草の根の共和党男性票には「華やかな女性候補大好き」という視線も濃厚にあります。少なくとも、ペイリンと、ヘイリーに関しては、その要素を意識して動いている「ふし」があるようです。ちなみに、サラ・ペイリンの場合は、大統領選を通じての衣装代やヘアメイク経費が高額に上ったとして、落戦後に批判を受けましたが、それは「女性らしい華やかさがダメ」なのではなく、あくまで動いたカネへの違和感だったと思います。

 では、こうした「共和党の華やかな女性候補軍団」に対して、オバマ大統領はどう対抗して行ったらいいのでしょう。かなり難しい点があります。というのは、共和党としては、存在感やカルチャーの点で「アンチ・オバマ」というセンチメントを濃厚に持っており、とりわけオバマ一流の「クールなダンディズム」へのアンチとして、女性候補を並べてきたという側面があるからです。この「クールなダンディズム」については、オバマの真骨頂ですから、どうしても譲れないのかもしれませんが、それが余り行きすぎると「家父長的な権威主義」的なものとして鼻につくようになるかもしれません。

 実は、その点でヒラリーとの熾烈な予備選を通じて、オバマは決して器用には振る舞えなかったところがあるように思います。今回の中間選挙、そして2012年の再選を目指すオバマとしては、そのあたりの「キャラクター戦争」をどうマネージしていくかが重要になるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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