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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ホットドック早食い大会はどうしてトラブルに至ったのか?
アメリカは契約社会と言われるだけあって、法律用語、特に契約書の文章には厳格です。例えば、日本の契約書には最後の条文として「甲乙の間に本契約書で定めた以外の係争事項が生じた場合は、甲乙誠実に協議するものとする」という意味不明な「誠実条項」があります。これは英訳不可能であり、英文契約書には入れないのが普通です。
では、英文契約書ではどうして「例外的な係争に関わる誠実調整義務」を入れないのかというと、契約書というのはそもそも利害が対立した場合の調整機能を持たせる「約束」であり、例外事項においても、利害が対立した場合は、双方がそれぞれの利害を主張するのが当然であって、誠実調整義務というのはナンセンスだからです。
それに加えて、例外が発生する可能性がないぐらいに「ありとあらゆる事態を想定して」徹底的に契約条項を詰めるのが「良い仕事」だということもあるでしょう。そのような徹底したロジック性の追及ということが英語の世界にはあります。あえて、企業内公用語として英語を採用したり、あるいは企業がグローバルな世界に打って出るために英語を使ってゆくのであるならば、こうした「英語のロジック性」を習得することが大事でしょう。
丁度、独立記念日のホットドック早食い大会で、小林尊氏が「契約のもつれ」から出場できないまま、大会終了後に壇上に上がろうとして警官とトラブルになるという事件がありました。ですが、少なくともビジネスとしては小林氏の参加には主催者側のメリットはあるはずで、他の大会への参加を一切認めないというような独占権(exclusivity) を主張してくるのには何らかの理由があるはずです。
そもそもこのホットドック早食い大会は「7月4日の独立記念日」に行われる「愛国行事」だそうで、2006年まで小林氏が連覇していたことで大会の知名度が上がったものの、2007年からチェスナットというアメリカの巨漢がタイトルを奪還してからの3年間は、既に「異国のコバヤシ」を「我が国の王者」が倒すことで、アメリカ人が溜飲を下げるというムードが漂っていたのです。
こうした経緯を考えますと、小林氏を「USA王者の引き立て役としての外国の悪玉」というキャラに貶めようという意図が主催者にあり、そのために他の大会での「勝者=善玉キャラ」になることを妨害しようということだったのではというストーリーが考えられます。仮にそうであれば、契約締結に至らなかったにも関わらず会場にいて情緒的な抗議を始めるというのは「ケンカの作戦」として失敗だったと言わざるを得ません。
そもそも小林氏の活躍によって話題性を獲得していった大会なのですから、もっとしっかり主張すべき所は主張して、どうしても悪役キャラとして消費されそうな危険を感じたら、日本やアメリカの世論に訴えながらあくまで契約社会の頭脳プロレスの戦いを有利に進めるべきだったのです。契約というプロレスの土俵でしっかり相手を屈服させることができずに、あいまいな形で「観戦」し、実際に大会が終わった時点で「俺にも食べさせてくれ」と叫びながら壇上に進むというのでは「負け」です。
しかも、一部の報道によれば、その「逮捕劇」の際に「USA、USA」というコールが起きたというのですから、仮に本当であるならば、穏やかではありません。これでは「日本のツナミ」こと小林氏は本当に「異国の悪玉キャラ」に仕立てられてしまいます。私は、このような流れを断ち切ることができないのであれば、小林氏はこの大会とは縁を切るのが正解とも思います。別の季節の別の企画で、自分が悪玉にならないような演出を前提として「自分の場」を作ってゆくべきです。
そうでなく、あくまでこの大会への小林氏の思い入れを生かしてゆくのであれば、とにかく「悪玉」的な扱いを取り下げさせ、その上で妙な「縛り」を外させて、自分を名誉ある過去の王者で、現王者の最大のライバルとして認めさせ、その上でしっかりした経済的権利を勝ち取るべきだと思います。契約社会のバトルはあくまで、契約というフレームでということです。
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