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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
アメリカの「補選」、分裂選挙の意味
日本では、鳩山政権は相変わらず支持率が高いようです。何よりも、静岡も神奈川も参院の補選は民主党が取ったということがそれを証明しています。一方で、日本の方々には意外感があるかもしれないのですが、「チェンジ」を標榜して高い支持率の中スタートしたオバマ政権の方はここのところ低迷が続いています。
日本の補選と比較するとするならば、丁度この11月の第1火曜日は「選挙の日」です。4年に一度の大統領選を含む総選挙や、その2年後にある中間選挙もこの日ですが、今年の場合はそのどちらでもない「静かな年」なのですが、私の住むニュージャージーでは知事選(過去の出直し選挙の関係でサイクルがズレているのです)、お隣のニューヨーク州では下院の補選があり、興味深い動きになっています。
というのは、どちらも「オバマ人気」にあやかって「民主党候補が有利」とはなっていないのです。まずニュージャージーですが、現職のジョン・コーザイン知事は民主党ですが、今回の再選を目指した選挙では全く勢いがありません。というのも「増税はなし」という公約を掲げて知事になったのにも関わらず、消費税率を6%から7%にアップしたこと、そして州政府のリストラが進んでいないことが世論の離反を招いているのです。
この消費税率アップに関しては、歳入欠陥による政府の機能停止(シャットダウン)という事態を経験しながら、州議会の与野党合意がギリギリのところで出来た結果決まったものであり、知事一人の責任でもないのですが、やはり「増税しない」と言いつつ「消費税を上げた」という事実は重く、共和党側が優勢となっています。ただ、チャレンジャーのクリス・クリスティー候補(共和党)は、ここニュージャージーでは票が伸びない「保守の価値観」に寄りすぎている(小さな政府+中絶反対)ため、ここへ来て「第3の候補」として独立系の州の元環境長官であるクリス・ダゲット候補が支持を伸ばしているのです。
一方で、ニューヨーク州北部の補選では、オバマ政権の医療保険改革などが不人気であることから「勝機あり」と見た州の共和党が「リベラル寄り」の候補、スコザフェーバ女史を立てて必勝を期したところ、「草の根保守」からは「中絶賛成派の彼女は真正保守ではない」という抗議が出ています。その結果として、共和党は分裂選挙となり、保守派のホフマン候補を擁立したのです。このホフマン候補ですが、アラスカ州知事を辞任した「サラ・ペイリン女史」が彼を支持した(党内ではヒンシュクを買っていますが)ことから支持率が急上昇し、共和党の票は真っ二つに割れた格好となりました。
ここへ来て、共和党の「現実路線」を代表するニュウト・ギングリッジ元下院議長がスコザフェーバ支持を表明するなど、ここは単なる分裂選挙というよりも、今後の共和党が現実路線で行くのか、保守派の情念路線で行くのか、方向性を占う試金石というムードも出てきています。その一方で、2人が票を食い合っているのは間違いなく、結果的に元々は共和党の議席であったこの選挙区は民主党のオーエンズ候補に行くという観測もあります。
考えてみれば、ニュージャージーの知事選の方は、中間派のダゲット候補とコーザイン知事が民主党の分裂選挙をやっているという趣もあり、図らずも今回の11月のアメリカ北東部の政局は「三すくみ」の注目選挙が2つ行われることになりました。どうして「三すくみ」なのでしょう? どうして分裂選挙になったのでしょう? ニュージャージーの方は、コーザイン知事の「大きな政府」路線が嫌われての結果です。またニューヨーク州の補選の場合は、共和党側が「真正保守って何?」という自分探しの結果として割れているのです。
選挙結果が出れば、また別の観点も出てくるかもしれませんが、現在のところとしては、アメリカの民意は「健全な中道派」を探して模索しているようなところがあります。共和党が保守的なイデオロギー政党に凝り固まることへの抵抗感もあるし、民主党に関して言えば、オバマ政権が余りムリをして医療保険改革に公営保険を入れたりするのには中間派的な感覚からすると抵抗感があるのです。その意味で、現在のオバマ政権はやや軸足が左に行きすぎて、政治的には不安定になっていると言うべきでしょうし、共和党にしても「草の根保守」に引きずられて右に寄りすぎているのかもしれません。
この11月の選挙が、そのあたりで両党の「軌道修正」のきっかけになれば良いのだと思います。ただ、オバマ大統領の政治的基盤は当分は弱い状態が続くと思います。政治的に弱い政権は、実務的な妥協や譲歩を行うパワーに欠ける、そんな「政治の算術」を考えると、普天間の問題で準備不足のまま首脳会談に入るのは良いことではないように思うのです。
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