コラム

プーチンさん、核を使うのはご自身のためになりませんよ(パックン)

2023年05月31日(水)18時30分
プーチン、パックン、ロシア、ウクライナ、核兵器

プーチンは核を使うか使うまいか思案中?(ロシア製原発の燃料搬入式典、4月)REUTERS-SPUTNIK PHOTO AGENCY

<戦争犯罪になることや大勢の犠牲が出ることだけではない、核のボタンは押してはいけない理由をプーチン大統領への手紙にしたためました>

G7サミットで各国の首脳が核兵器の恐ろしさを再確認し、ウクライナ戦争における核兵器の使用を強くけん制したことは、評価しよう。しかし残念なのは「G7」であったこと。ロシアを含めた「G8」のままだったらその核兵器の使用を仄めかしているご本人、プーチン大統領も参加したはず。惜しい!

しかし、僕はあきらめない! 何とかして、この重要な欠席者をも説得してみたい。誰か、下記の手紙を届けてあげてください!

親愛ならないプーチン大統領へ

こんにちは。いつもテレビで拝見して、遠くから応援していないパックンです。突然ですが、僭越ながら僕から一言アドバイスを述べさせていただきたいです。ずばり、核兵器の使用をやめましょう。

その理由は多数ありますが、戦争犯罪になること、国際規範を破ること、大勢の民間人が犠牲となることなどには、あえて触れません。もちろんこれらもとても大事なことですが、そんな陳腐な論じ方は効かないでしょう? そういう、普通にやってはいけないことを普通にやっているのがプーチン大統領ですから!

戦術核を使うとロシア艦隊が壊滅

ここでは法律、規範、道徳などを中心に考えるのではなく「プーチン中心」に考えるようにしましょう! 陳腐よりプーチンだ!

僕が言いたいのは、プーチン大統領の狙いを考えても、核の使用は逆効果になること!

これには、3つの意味があります。まずは、ウクライナを支援する国の報復攻撃や全面参戦を誘う確率が高いです。小規模の弾頭で限定的な破壊力を持つ「戦術核」を使ったとしても、アメリカやNATO諸国が従来の武器で黒海にあるロシアの艦隊を壊滅させる見込みです。僕だけではなく、ご存じデービッド・ペトレアスもこう主張しています。個人の推測ですが、信頼度は高いです。ご存じの通り、ペトレアスは元米中央軍司令官で元CIA長官ですし、イラクやアフガニスタン戦争でたくさんの功績を残していますし、その功績を伝記に綴った作家と不倫していますし。プーチンよ、浮気男の言うことを信じないなら、誰を信じるんですか!

戦術核を使ったせいで、艦隊を失い、NATOが全面参戦することになったらどうですか。勝つためにやったことが敗因になりますよね。NATOだけに、そうしたら馬鹿な選択だナト思いませんか? 

それ以前に、考えてみたら報復攻撃がなくても、 核を使った瞬間、ある意味ロシアの負けを認めることになると思いませんか。ウクライナより国土が28倍、人口が3.3倍、経済規模が10倍近く大きいロシアですよ。「特別軍事作戦」を開始する前から、ロシアは世界2位の軍事大国と言われていました! ウクライナの軍事力は世界25位(2021年)。禁じ手を使わないとそんな弱小国に勝てないんですか?

大統領は「ロシアはスーパーパワー(超大国)になろうとはしていない」と公言していますが、スーパーパワー的な振る舞いをしてきました。内心、スーパーパワーのつもりではないしょうか。しかし、ウクライナに勝つため核に頼ってしまったら、スーパーパワーどころか、スーパーマーケットにも及ばない脆弱性を暴かれてしまうことになるでしょう。

最後に、大統領は10年以上前から「ロシア特別主義(例外主義)」を強調していると思いますが、核を使ってしまったらロシアの特別感を「物理的に」失ってしまうことになるでしょう。というのも、ロシアは現在、世界に9カ国しかない核保有国の1つです。しかも、5カ国しかない核拡散防止条約(NPT)で核の保有が認められている、とっても特別な国です。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊製鋼を完全子会社に 1株2750

ワールド

ノルウェーで欧州懐疑派政党が政権離脱、閣僚の半数近

ビジネス

日経平均は小幅に3日続伸、方向感欠く 個別物色は活

ビジネス

午後3時のドルは154円台を上下、トランプ関税や日
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story