コラム

今からでも遅くない! トランプ弾劾を徹底解説

2019年11月14日(木)16時10分

―原告側は誰でも召喚できるのに、被告側はできないのですか?

はい。でも、忘れてはならないのは、今の調査は本裁判ではなく、訴追するかどうかを決めるだけのものだ。刑事裁判の前に、刑事が検察に証拠をみせて書類送検をするか決めるときに、被告側の証言はないだろう? それと一緒。上院で本裁判になれば、もちろん共和党が好きな人を召喚できる。

実は下院の公聴会にも基本的に、調査に必要な情報を持っている人なら共和党の召喚要求は通るはず。関係ない人は呼べないだけ。

―関係ない人って?

例えば、ハンター・バイデンや、例の内部告発者。

―その2人は大いに関係しているでしょう!

そう見えるが、民主党が言うには、弾劾調査しているトランプの疑惑に関する情報を、バイデン・ジュニアは持っているはずがない。彼を公聴会で証言させることは目くらまし作戦で、バイデン・パパへの政治的攻撃にしかならない。そもそも、トランプがバイデンをつぶそうとした不正行為を調べる公聴会をバイデンつぶしに利用させてはいけない、と。

―トランプが望んだバイデンへの捜査はウクライナではなく、アメリカ下院がやってくれることになりますね。でも、内部告発者は召喚していいのでは?

告発の内容は他の人の証言で十分立証できるから、告発者を召喚する必要はないと、民主党は言う。さらに、ホワイトハウスで働く人だから、解雇などの報復を恐れて身元を隠している。内部告発法上でも匿名性を守る必要はある。

―さすがに、告発者をクビにしたらまずいでしょう?

まずいね。でも、リアリティー番組の定番台詞が「You're fired!」だったトランプは、人をクビにするのが特技で、まずいときでもやっちゃうようだ。例えば、ロシア疑惑を捜査中のジェームズ・コミーFBI長官をクビにした。これが司法妨害ではないかと、ムラー特別検察官の捜査のきっかけとなった。でも、懲りないトランプはムラーもクビにしようとした。ホワイトハウス法律顧問のドン・マクガーンが止めただけ。

―じゃあ、告発者を解雇しようとしても、マクガーンが守るのでは?

そんなマクガーンも昨年解雇された。

―なるほど。召喚しづらいですね。でも、全ての情報を見なくても、調査は成立しますかね。

その不安はある。しかも両党から! 民主党からは、本当に真実を明かしたいなら、バイデンや告発者よりも、ウクライナとトランプ政権の関係をよく分かっている、もっと中心的な人物の証言を求めるべきではないかという意見が出ている。国務長官、大統領首席補佐官、国家安全保障問題担当大統領補佐官などなど、だ。

―召喚していないのですか?

しているし、召喚状を出しているが、トランプ政権は関係者に一切証言させないと公言している。資料の開示も拒んでいる。これは捜査妨害だと、民主党は弾劾の内容に加えている。

―防御が固いですね。

はい。共和党の一枚岩にヒビは入らない。弾劾訴追案は民主党議員の票だけで下院を突破するはずだが、共和党が支配する上院でトランプが有罪になり、罷免される可能性はゼロに等しい。

―じゃあ、私たちがせっかくここまで学習したのに、結果が分かっているなら、注目してもしょうがないのでは?

そんなことない。結果が変わらなくても、弾劾ドラマには十分なエンターテインメント性があるはずだ。みんな結末が分かっていても、忠臣蔵を見るでしょ?

―でも、今回、討ち入りする民主党は、敵の首を取らずに終わってしまいそうですね。

はい。選挙で負ける可能性もある。仇討ちもできないまま、民主党の侍たちは自害する......忠臣蔵よりも切ない悲劇だね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story