コラム

ゲーリー・ハートで考える「政治家の不倫はOK?」

2019年01月24日(木)18時40分

しかし、なぜか1987年は違った。ハートのうわさは放っておいてもらえなかった。新聞記者が愛人とされる女性を尾行し、密会と思われる現場を写真に撮り、確証が得られる前に疑惑を一面で報じてしまった。そこまで「立ち入り禁止区域」に踏み込まれ、政治家のプライベートが踏みにじられた。ハートは報道を受けてすぐ自ら立候補を取り下げ、政界から退いた。
 
そのとき、歴史が動いた! 

すみません、つい言いたくなった。
 
この件をターニングポイントに、政治家の「公」と「私」の区別がなくなり、プライベートも遠慮なくさらされるようになった。ビル・クリントンの時代には、セクハラ疑惑から始まった捜査がインターンとの不倫発覚につながり、弾劾される展開になった。それでも、クリントン大統領は生き残った。

ちなみに、クリントンを一番厳しく追及していたニュート・ギングリッチ下院議長(当時)も、闘病中の妻が入院している間に不倫していたことが後に報道された。でもギングリッチもいまだに共和党の重鎮として現役だ。

そして、ドナルド・トランプの時代がやってくる。10人以上の女性からセクハラなどを訴えられている。自ら性的暴力を自慢している。AV女優と寝た上、選挙中に口止め料を払っている。そんな「不適切関係の百貨店」が大統領になり、次から次へと疑惑が浮上してもほぼ無傷だ。

政治家の不貞を無視する時代から凝視する時代に変わった。予想のつかない転換だったが、1987年当時の僕が2019年の現状を見たら、きっと不思議に思うだろう。なんでハートはグレーなだけで政界から消えたのに、黒いやつがホワイトハウスにいるの?

その疑問を考えると、必ず思い浮かぶ議論のテーマがある。
▼政治家のプライベートを、メディアはどこまで詮索する権利があるのか?
▼政治家のプライベートを、知る権利が本当に国民にあるのか?
▼知る権利に制限があるならば、誰もがカメラを持ち歩く「1億総記者」の時代にどうやって公人のプライベートを守るのか?

30年以上前から考えられている問題だが、いまだに結論が出ない。「政治家が配偶者への約束を守れないなら、国民への約束も守れないだろう」という主張から、不倫なども審査材料にしたい有権者の気持ちも分かる。一方、「夫婦関係は夫婦だけの関係で他人が介入するべきではない」という考え方も分かる。

僕もまだ心の中で葛藤が続いている。ただ、同じ女性問題で「幻の大統領」が生まれるなら、ハートではなくて今期であってほしかったなぁ。

*このコラムはPR用のものではないが、ハートの不倫騒動と不倫報道を取り上げた映画『フロントランナー』が2月1日に日本公開される。もちろん映画も観たが、来日した主演のヒュー・ジャックマンと対談取材もできて、とても面白かった。興味がある人は、ぜひチェックしてみてください。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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