コラム

1978年、極左武装グループ「赤い旅団」の誘拐、映画『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』

2024年08月07日(水)17時28分

5話のモーロの妻エレオノーラは、夫からの手紙に心を揺さぶられ、政府や法王への説得をつづける。そんな彼女は子供たちと、湖の捜索を伝えるニュースを見る。彼らのもとには、第7の声明について、警察は偽物であることをすぐに内務省に伝えたが、誰もがそれを信じていたという情報が入り、モーロの長男ジョヴァンニは、「厄介払いしたくてたまらないんだ」と語る。


 

強硬路線と柔軟路線がせめぎ合う図式

強硬路線と柔軟路線がせめぎ合う図式は、偽の第7の声明が多方面に及ぼす影響によって崩れていく。そこには見えない力が働いている。

それを踏まえると、1話と6話に盛り込まれたモーロが生きたまま発見され、病院に収容される場面の意味の違いも明確になる。

モーロが誘拐されてから、ある時点までは、彼が解放される可能性があったが、それが幻想に変わる。1話の可能性と6話の幻想は、同じ場面の繰り返しのように見えて、異なる印象を与える。

1話のそれは、単なる結果ではなく、その後を想像させる生々しい空気が漂っている。病院に駆けつけたアンドレオッティ、ザッカニーニ、コッシーガの間で、まずアメリカの友人に連絡をとか、家族や法王にはまだ知らせずに、といった指示が飛ぶ。それは偽の第七の声明と無関係ではないかもしれない。

『夜よ、こんにちは』と本作は、「夜」をめぐって対をなしていると書いたが、緻密に構成された本作の世界に引き込まれていくうちに、実はそれは内側と外側という境界を越えたところにあったのではないかと思えてくる。

『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』
8月9日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次ロードショー
(c)2022 The Apartment - Kavac Film - Arte France. All Rights Reserved.

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story