人工島の軍事拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ
さらに、航空機を運用する基地として人工島を使用するならば、航空機を格納するハンガーや整備用施設だけでなく、パイロットや整備員に加え、滑走路及び航空保安施設の維持整備や航空管制に従事する人員等が地上業務を行う執務室や司令部、さらに彼らが長期滞在するための生活用施設も必要になる。航空機を運行するためには、数百人規模の人員が必要になり、滑走路以外の多くの施設も必要とされるのだ。
「ビッグ3」には、航空機を運用するためのこうした施設がほぼ完成している。庁舎や兵舎等の建物及び燃料貯蔵庫・真水貯蔵庫は既に建設され、各礁に4つずつ軍事用資材等を補完すると見られる大規模な地下構造物が建設されている。
ハンガーの数を見ると、各礁に少なくとも1個飛行隊以上の戦闘機に加え、H-6K等の大型爆撃機や哨戒機・輸送機などが配備可能である。さらに、各礁には航空基地の防空能力が構築されている。2016年12月には、南沙諸島の人工島に高射砲が配備されていることが確認されていたが、対空ミサイル・システムの配備も進められている。
対空ミサイルも発射可能
「ビッグ3」には、対空ミサイルを格納すると思われるシェルターが8個ずつ建設されていたが、ファイアリー・クロスには、さらに4個のシェルターが追加された。これらシェルターは、衛星画像から見る限り、上部が開閉式になっており、シェルターの中から対空ミサイルを発射することができる。
対空ミサイルを発射するためには、発射指揮システムに探知目標情報を元にした発射諸元を入力しなければならないが、各礁には、対空ミサイル・システムを構成するレーダーが複数整備されている。また、周辺海域の水上目標を探知するためのレーダーや情報共有のための通信用アンテナも整備されている。これらレーダー群は、各礁とも、一定の区画内に集中して建設されている。
中国は、間もなく、西沙諸島及び南沙諸島の人工島に戦闘機等の軍用機を配備し、基地防空も行えるようになるということだ。また、南シナ海の大部分の海域において、艦船の動静を把握できるようになる。これら情報は、衛星等を用いたネットワークを通じて、中央軍事委員会聯合参謀部にも共有される。
中国は、米国と軍事衝突すれば勝利できないものの、米国が軍事力を行使しない範囲において、南シナ海における軍事的優勢を保てるようになるだろう。しかし、あくまで、「米国が軍事力を行使しない範囲において」という条件が付く。米国が、オバマ政権時代のように軍事力行使を避けるのであれば、中国の所要は満たされる。
この筆者のコラム
中国を外に駆り立てるコンプレックス 2018.05.31
人工島の軍事拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ 2017.07.03
中国空母が太平洋に──トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化 2016.12.27
中国はなぜ尖閣で不可解な挑発行動をエスカレートさせるのか 2016.08.09
仲裁裁判所の判断が中国を追い詰める 2016.07.13
南シナ海、強引に国際秩序を変えようとする中国 2016.05.02
中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味 2016.02.19