コラム

日本が新型肺炎に強かった理由

2020年03月16日(月)14時55分

貧富の差が大きいと、社会が病を認知するまで時間がかかるが、一旦認知するとひどいパニックになる?(写真は3月15日、封鎖されたイタリア・ミラノのホームレス) Daniele Mascolo-REUTERS

<新型コロナウイルスがヨーロッパにまで拡大した今、振り返ってみると、被害を最小限で食い止めたのは日本だった。何がよかったのか>

日本政府のこれまでの新型肺炎対応に関しては、ダイヤモンド・プリンセス号の頃は、世界中の批判が殺到したが、現在、世界を見渡してみると、新型肺炎の潜在的なリスクに対して、被害を最小限で食い止めているのは、日本だといえる。

これが政府の対応の成果なのか、国民性を含む社会の力なのか、要因分析は客観的にはできないが、一つだけ感想を述べたい。

やはり、日本の全体的な医療の水準が高いということがあるのではないか。そして、貧富の差の影響が、受けられる医療の質に対して影響する度合いが、相対的には世界的に非常に低いことが大きいのではないか(かつての社会主義国は除く。かつての社会主義国の唯一よいところは、経済水準に比して教育と医療の平均的な水準が西側諸国に比べて高いということだった)。

恵まれた公的医療保険制度

日本で貧困が進んでいるといわれているが、それは相対的な貧困率というデータの罠で、超富裕層が少なく、中間層の上の方が厚く、極貧層は少ないが、低所得者層がそれなりに厚いということによるものだ。したがって、貧困と言ったときの実際の生活水準が、極貧に近い諸外国の貧困層に比べてかなりましなのである。これが疫病の広がりを防ぐ背景の一つであるとおもわれる。

そして何より、公的な医療保険制度が、様々な問題があるとはいえ、世界的には非常に受診者にとっては恵まれていることが最大の要因だ。とりわけ所得の低い層(公的保険料を払っていれば)においては、世界的には非常に恵まれているからだ。北欧などの小国かつほとんどの国民が豊かであるような国と比べて劣っているところをあげつらうのは間違いで、もう一度、日本の公的医療制度の良い点を見直すべきである。最大の問題は財政的な持続性であるが、これは別の機会に議論しよう。

公的医療の問題について現れているのは、違法あるいはグレーゾーンの移民と社会の関係である。欧州では、21世紀、常にこの問題に悩まされているが、今回の意外な欧州での新型肺炎危機に対する恐怖感、不安感は、これが大きいのではないか。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド首相がウクライナ初訪問 首脳会談でロシアとの

ビジネス

米国株式市場=急反発、FRB議長が9月利下げ明確に

ビジネス

米アップル、iPhone新機種など9月10日発表=

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRB議長の利下げシグナル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン・イスラエル戦争?
特集:イラン・イスラエル戦争?
2024年8月27日号(8/20発売)

「客人」ハマス指導者を首都で暗殺されたイランのイスラエル報復が中東大戦に拡大する日。

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    黒澤映画の傑作『七人の侍』公開70周年の今、全米で再び脚光を浴びる理由
  • 2
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...クラスター弾が「補給路」を完全破壊する映像
  • 3
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 4
    <南シナ海>中国の違法な軍事拠点を守る世界最大の…
  • 5
    ドードー絶滅から300年後、真実に迫る...誤解に終止…
  • 6
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 7
    「意外と知らない?」日本より人口減少が深刻な国々
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシ…
  • 10
    『ハリー・ポッター』初版に隠された秘密...30年越し…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 3
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 4
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
  • 5
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 6
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    コロナ後遺症ここまで分かった...「感染時は軽度」が…
  • 9
    ウクライナに国境を侵されたロシア、「とてつもなく…
  • 10
    「海外でステージを見られたらうれしい」――YOSHIKIが…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 5
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 6
    バフェットは暴落前に大量の株を売り、市場を恐怖に…
  • 7
    古代ギリシャ神話の「半人半獣」が水道工事中に発見…
  • 8
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 9
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
  • 10
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story