コラム

物価はどう決まるか 混乱する経済学

2018年06月19日(火)15時00分

さらに、技術的には、日銀や総務省の統計では、企業の価格上昇を目立たなくする、という戦略が見抜けていないという問題がある。というか、見抜けても、統計の取り方を変えるべきでない、と考えているから、静かな物価上昇はCPI(消費者物価指数)の上昇には反映させない、反映しないのである。この結果、日本ではインフレが起きない、同時に統計上観察されないこととなり、エコノミストたちが大騒ぎすることとなっているのである。

インフレにならない優れたシステム

日本は景気が過熱しても物価が上がりにくい経済構造になっており、これはインフレによる景気後退が起こりにくいので大変優れたシステムである。それ以上に、コストプッシュ型のインフレに対するいわば高性能のショックアブソーバーが備えられており、経済のやっかいものであるコストプッシュインフレ、賃金プッシュインフレもおきにくくなっており、これは素晴らしいことなのである。日本のもっとも優れた部分を破壊しようとする、デフレマインド払拭という名の金融政策、経済政策は最悪の政策なのである。賃金が上がりにくいのであれば、それは労働市場を改革し、より効率的に成長に結びつくように、あるいは労働者の幸せ度を上げるようにするべきであり、インフレはまったく関係ないし(むしろ実質所得が下がるから悪である)、ましてや、労働市場の改革を金融政策で行うのは、無理というより意味不明なのである。

日銀はこれを理解しているはずだが、先日の政策決定会合後の記者会見で、黒田総裁は、「2016年9月のような総括検証をもう一度やる必要はない」とわざわざ明示的に言及した。

私はてっきり、次回の政策決定会合での展望レポートで、2016年9月のような総括検証を行い、金融政策の正常化へ一歩踏み出すのだと思っていた。

金融の正常化も、日銀の正常化も進まない。絶望的だ。

世界的に金融引き締めが必要な状況であり、それは日本もまったく同様だ。

無駄な金融緩和はやめ、日本の金融市場と財政を破壊する国債買い入れ、株式買い入れは即座に停止を宣言するべきだ。

日銀はいまこそ正常化し、金融政策を正常化すべきだ。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

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プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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