コラム

物価はどう決まるか 混乱する経済学

2018年06月19日(火)15時00分

さて、モノの値段はどうやって決まるのか。

学者の中で例外的にこれを真摯に学問的に見つめてきた東大経済学部の渡辺努教授に聞いたらよい。

ただし、下手な解釈をして、それは厳密には違う、ということだと困るので、私自身の解釈を簡単に述べたい(詳しい議論はまた改めて執筆したい)。

世界の物価が上がらない理由、とりわけ日本だけが上がらない理由

世界経済は過熱しており、それは米国で顕著であるが、欧州、日本は、構造的な成熟、停滞の中で景気が過熱しているので目立たないが、景気循環からすれば完全に過熱局面だ。

それでも物価が上がりにくいのは、まさに成熟経済に入ったからであり、新興国の生産力や格差の拡大、生産性の本質的な向上、産業革命が起きようがないから、ということである。

日本が特に物価上昇が目立たないのは、消費者の嗜好、それに対応する企業の戦術、戦略から、企業が製品の価格を目に見えてあげない方針にしているからだ。

これをデフレマインドと呼ぶのは自由だが、これは1990年以降に限って成立したものではなく、1980年代後半のバブル、急速な円高(それまでの過度なドル高の反動だが)によって観察がしにくくなっているが、1980年の第二次オイルショックを乗り切れたのも、この社会構造があったからであり、それに応じた賃金、雇用体系になっていたからである。

1970年代のオイルショックを見ると物価は上がっているように見えるが、これは世界共通であり、その後の対応を見ても、サプライサイドのショックに反応しただけであり、しかもそれは原油という限定的なものに反応しただけであり、需要が過熱することによるインフレというものは起きていない。

戦後の混乱期のハイパーインフレはまさに戦後の混乱であり、システム変更だから、需要が過熱することによるインフレという構造ではない。

こう考えると、少なくとも戦後は、需要超過によるインフレ、という米国で見られるようなインフレは日本では起きていないのであり、現在、インフレが起き難いのは1990年代以降のデフレマインドによるものではなく、日本の経済構造、企業、消費者の嗜好によるものなのである。

さらに、コストプッシュ型のインフレが起き難いのは、こちらは日銀などでも議論されているように雇用構造の影響はあるのだが、オイルショックに見られるようにコストプッシュ型のインフレはよいことではもちろんなく、その影響を緩和させることが経済においては非常に重要だから、日本のシステムは世界一優れていると言えるのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減との報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を来年決定も─USTR代

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story