コラム

物価はどう決まるか 混乱する経済学

2018年06月19日(火)15時00分

このような議論をすると、著名なマクロ経済学者たちは言う。

小幡君。経済学者は個別の製品の価格を言っているのではないのだよ。我々は学者だから、経済全体を見ている。物価というのはマクロ、経済全体の話だから、総需要が増えれば物価は上がるし、貨幣供給が増えれば、金利が低下して、消費や投資が出てくるから、ゆくゆくは物価に反映されるのだよ、と。

しかし、彼らは現実を知らなさ過ぎる。

株式市場では、妥当な株価水準というのは存在しないのだ。

トヨタと日産の株価でどちらが割高か、という相対価格は決まるが、価格の絶対水準は決まらないのだ。日経平均で2万4千円が割安か割高かはわからないのだ。米国市場より日本市場が割安ということ、大型株より小型株が割安ということ、つまり、相対価格しか、理論的には、いや論理的にも決まらないのだ。だから、仕方なく、絶対水準を決めるために、ファンダメンタルズ、需要サイドは関係なく、供給サイド、その証券のもたらすキャッシュフローで決まるのだ、という風に説明されるのだ。ただし、それでも、投資家サイドのリスク態度により大きく変わるから、要は世の中が悲観的なら絶対水準は下がり、楽観的なら上がるのだ。

財市場も同じだ。

ミクロよりマクロは圧倒的に難しいのである。なぜなら、相対、というものが存在しないからだ。だから、ミクロの価格決定理論がミクロ経済学そのものであり、新古典派のほとんどすべてなのだ。そのミクロ理論をマクロに拡張した理論を経済学は懸命に発展させてきたが、それは論理的には整合的だが、現実とは無関係なものになったのだ。それで、巷のエコノミストは依然、貨幣数量説、少しましな人々でも似非ケインズ、ケインジアンの議論をしているのだ。

物価はどうやって決まるのか。とりわけ、現在の問題、物価はどうやって上がるのか。

それは経済学の教科書にはどこにも書いていないのである。

物価のなぞなど存在しない

景気が過熱しているのに、なぜ物価が上がらないのか、というのが経済の、中央銀行の、エコノミストの、そして経済学者達の間で謎とされているらしいが、謎でもなんでもない。

誰もモノの値段がどうやって決まるか知らないからなのだ。知らないというより、見ようともしないで、マクロデータとにらめっこしているだけだからなのだ。現実を見よ。それだけのことで、すべての有識者よりも優れた洞察を得ることができる。有識者には事実は分からない。彼らは事実を解釈するだけだから、事実そのものを見る目はないし、見ようともしないのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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