コラム

日銀は死んだ

2016年07月29日(金)18時52分

 なぜ、極東の日本だけが、英国EU離脱で危機になるのか。新興国経済がなぜ日本にだけ影響するのか。安倍首相の伊勢志摩サミットのデジャブである。

 さらに、そもそも、中央銀行で株式を購入しているのは、世界で日本だけである。日銀だけである。世界的には理解不能なのである。

 欧州はリスクのある国債を買って、国債市場の流動性を確保、金融の機能不全を解消し、米国では、金利低下で住宅投資を支えるために、住宅関連の長期債券を国債とともに買い入れた。しかし、社債を買い入れて、債券市場の金利低下を促すことはあっても、株式を中央銀行が買う例はどこにもない。しかも、6兆円という多額である。さらに日本の株式市場は、英国のEU離脱による下落を回復し、それ以前の水準に戻っているのに、である。世界的には株価は米国などで史上最高値を更新しているときに、である。

 まったく意味不明の株式買入という追加緩和だ。

 これを行った理由を、あえて日本銀行の執行部の立場に立って考えると、以下のようなストーリーしか思い浮かばない。

****

 もはや金融緩和は限界だ。拡大して経済によいことはない。副作用、リスク、コストを考えると拡大するべきではない。

 一方、これで何もしないわけにはいかない。金融市場の怒り、暴落、円高も怖いし、官邸に対しても、何もしない、というわけにはいかないだろう。何かは、アリバイ作りであったとしてもやらないわけにはいかない。

 では、何をするか。

 まず、もはや量的緩和は本当に限界だ。これ以上副作用を大きくするわけにはいかない。

 とりわけ、国債買い入れ増加額の増加は、政府の発表した28兆円対策と相まって、ヘリコプター・マネーの前哨戦を連想させる。したがって、これはできない。

 次に、マイナス金利の拡大は、-0.1%から-0.2%への変更なら、ほとんど効果もないが、実害もなく、金融政策の筋としても、金利引き下げだから、理論的には整合的だし、説明もつきやすい。もっともまともだ。

 しかし、金融機関、銀行の反発が怖い。前回、あまりに評判が悪く、三菱でさえ反旗を翻した。これは政府としても良くないから、官邸からも批判が来るだろう。だからできない。

 となると、質しかない。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story