講談社『中国の歴史』も出版した中国の「良心的出版人」が消えた
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<5月、知識人の間で高く評価され、理想を追求する良心派だった広西師範大学出版社の何林夏氏が逮捕された。まだ謎の多い事件だが、なぜ彼は当局に「消された」のか> (写真は本文と関係ありません)
山水画のような景色で有名な桂林がある中国の広西チワン族自治区といえば、経済発展のレベルからすれば、真ん中よりかなり下のほうにある、というイメージが強い。文化的にはもっと評価は低いかも知れない。そんな広西・桂林に本社を置く「広西師範大学出版社」は、この10数年、「理想国」などのブランドを打ち出してほかの出版社が手を出さない良書や問題作を次々と世に問うことで中国の出版界を席巻し、知識人の間で高い人気と信用を築いてきた。講談社の大著シリーズ『中国の歴史』も翻訳出版し、一昨年に大ヒットさせたことで日本の出版界で話題になった。中国でこれまで3冊本を出している私も、いつか「理想国」で本を出してみたいと内心期待していた。
ところが、その広西師範大学出版社を引っ張ってきた伝説的な出版人である同社前会長の何林夏氏が、この5月、広西チワン族自治区人民検察に収賄の疑いで逮捕された。中国の出版界に強い衝撃が走ったことは言うまでもない。何氏は、広西師範大学出版社を、桂林にある地方の一出版社から売り上げが全国の大手10位に入るほどの全国ブランドに一手で押し上げた。「理想国」「魔法象」「新民説」などのブランドを打ち出し、今年始めには2015年の中国出版界で最も活躍した人物を表彰する「年度出版人」に選ばれたばかり。そんな出版人にいったい何が起きたのだろうか。
今回の事件の詳細はほとんど公表されておらず、実情は定かではない。この件について、最も詳しい報道を行った中国のメディア「鳳凰網」の記事などによると、大半の同社社員は「詳しいことは知らない」「答えられない」と口をつぐむのみ。同社に厳しい箝口令が敷かれていたという。
【参考記事】香港名物「政治ゴシップ本」の根絶を狙う中国
何氏は広西師範大学の研究者だったが、1994年に同社に入社し、編集者となった。能力を買われ、1998年に編集長に起用され、2008年から社長を兼務した。分かっているのは、すでに何氏は逮捕されており、一緒に長年同社を引っ張って来た女性編集長も免職されていることだ。何氏は理想を追求する良心派の出版人で、タバコも酒もやらず、車にも乗らずに徒歩で出勤するなど、昨今中国で急増したすぐに腐敗するタイプの幹部ではなかった。非常にゆるやかに社員を管理し、どんな本でも社員が作りたいといえば基本的に応援し、組織の上からのプレッシャーには自分が責任を持って押し返す、という仕事ぶりだったという評判が広く語られている。
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