コラム

ジャニー喜多川の性加害問題は日本人全員が「共犯者」である

2023年05月23日(火)21時24分

「天才的な審美眼」は本当か

ところで、ジャニー喜多川は長年「天才的な審美眼」「男性アイドル発掘の名伯楽」などと礼賛されてきた。プロデューサーとしての手腕は高く評価されており、「菊田一夫演劇賞 特別賞」や「日本レコード大賞 特別音楽文化賞」を受賞している。だが、私は最近、そうした評価に疑問を抱き始めている。

ジュリー社長が謝罪動画を公開した翌日、NHKスペシャル「映像の世紀」にて、1930年代のハリウッド黄金期に数々のスターを輩出した映画プロデューサーの言葉として、以下の内容が放送された。

「スターは慎重かつ冷酷に、ゼロから誰からでも作り上げることができる。年齢、美しさ、才能なんて関係ない。私たちは毎日、メス豚の耳から絹の財布を作ることができるのだ」

つまり、スターやアイドルという存在はその黎明期から「精巧に作られた存在」だったのである。本人の努力や才能も必要だが、決してそれだけではない。権力者から寵愛され押し上げられていくというプロセスなしに、スターは誕生し得ないのである。

となると、ジャニー喜多川が持っていたものは才能を見抜く審美眼というよりも、自分の気に入った少年たちをスターに押し上げるために必要な、ひたすらなまでの「権力」だったのではないか。

メディアを威迫し、忖度させ、競合しそうなライバルは、早いうちから潰す。組織を去った者も潰す。このように独禁法違反となりうる強引な手法を用い、メディアを支配する「権力」を持つことによって、アイドルたちはいっそう輝きを増していった――

と考えたほうが、遥かに理解しやすい。だとしたら、それは日本の芸能界や音楽業界にとって、本当にプラスになっていたのだろうか。

結論を述べる。ジャニー喜多川による性加害の問題について、メディアの責任は確かに大きい。でも、民事訴訟で「セクハラ行為」を認定する高裁判決が出た2003年当時、この問題の重大性をきちんと認識できる人は、日本にほとんどいなかった。その意味で、すべての日本人はジャニー喜多川の罪を黙認し続けた共犯者なのである。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

比大統領「犯罪計画見過ごせず」、当局が脅迫で副大統

ビジネス

トランプ氏、ガス輸出・石油掘削促進 就任直後に発表

ビジネス

トタルエナジーズがアダニとの事業停止、「米捜査知ら

ワールド

ロシア、ウクライナ停戦で次期米政権に期待か ウォル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story