最新記事
シリーズ日本再発見

「吉原見物」とは何だったのか?...出版文化が生んだ「聖地巡礼」に武士も庶民も女性も虜になった

2025年02月01日(土)09時10分
永井義男(小説家、江戸文化評論家)

thmb.00123-720.jpg

新吉原 レセプションホール(張見世)/(Sin-Yosiwara. - Reception hall.)『日本と日本人』(アンベール編)所蔵:国際日本文化研究センター

現在、アニメの舞台になった場所などをファンが訪ねるのを、「聖地巡礼」という。江戸時代の人々が吉原に行きたがったのも、まさに聖地巡礼だった。

というのも、当時の出版人・蔦屋重三郎は吉原を舞台にした戯作(小説)を多数、刊行した。さらに、吉原の遊女を描いた錦絵も多数、刊行した。

蔦屋だけでなく、他の本屋(出版社)からも、吉原と遊女を題材にした戯作や錦絵が続々と刊行された。写真も映像もない時代、蔦屋などの刊行物が、地方に住む人々の吉原へのあこがれをかき立てたのである。


 

一度でいいから、戯作や錦絵の舞台となった吉原を実際に見てみたい――

まさに聖地巡礼だった。吉原への願望は男だけでなく、女にもあった。幕末の尊王攘夷の志士・清川八郎は、母親に吉原見物をさせているほどである。地方の裕福な家の女も刊行物を通じて、吉原への想像を膨らませていたといおうか。

蔦屋など江戸の出版社は吉原を題材にして本や浮世絵を売り、一方の吉原はそうした刊行物で人気を高めたといえよう。

外国人も吉原には興味を示した。図(編集部注:上の写真)は幕末期のレセプションホール(張見世)を描いたもの。


永井義男(ながい・よしお)
小説家、江戸文化評論家。1949年生まれ、福岡県出身。東京外国語大学卒業。1997年、『算学奇人伝』(ティビーエス・ブリタニカ/祥伝社文庫)で開高健賞を受賞。小説に『秘剣の名医』(コスミック出版)、『吉原同心 富永甚四郎』(KADOKAWA)など、多数。江戸文化批評に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』、『剣術修行の廻国旅日記』(朝日新聞出版)、『下級武士の日記でみる江戸の「性」と「食」』(河出書房新社)など、多数。


81A7SHJWMxL._SL1500_160.png

 『江戸の性愛業
  永井義男[著]
  作品社[刊]


(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


20250311issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月11日号(3月4日発売)は「進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗」特集。ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニスト、29歳の「軌跡」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中