山辺赤人が『万葉集』で詠んだ富士山は、たった2文字で解釈が変わる...「降りける」か「降りつつ」か?
『百人一首』の本文は現実的でない、という批判もあるようだ。だが私は、田子の浦に出て白い山頂を見やりながら、目には見えなくても、あの山頂には今も雪が降り続いているのだろうと想像してみるこの歌が好きだ。
たった二文字で解釈ががらっと変わるのも、そして『万葉集』と『百人一首』、それぞれの本文において、富士山が異なる魅力を発揮しているのも、とても興味深い。
ところで、私は富士山が大好きで、富士山の麓(ふもと)に別荘を構え、長年、週末ごとに富士山の近くで過ごしていたことがあったほどである。
翻訳者としても、古くは『風土記』や『万葉集』から、現代の俵万智まで、富士山が登場する文学作品を幅広く探して、数年かけてその英訳を完成させた。『富士文学百景』という名で、いつか出版できればと思っている。
また、私は「西斎」の雅号で「新富嶽三十六景」という版画も制作している。もちろん、「西斎」は「富嶽三十六景」を描いた葛飾北斎に因んだ名前である。
私は常々、日本の古典文学作品に見られるような人間と自然とが一体化した世界観と、自然から切り離された現代に生きる私たちの感覚との間に溝を感じている。それを表現するために、北斎の「富嶽三十六景」へのオマージュとして、「新富嶽三十六景」を制作したのだ[編集部注:トップページの写真]。
その中から一点ご紹介したい。富士山が世界遺産に登録されたお祝いに、富士山と折り鶴をあわせてみた。富士山ひいては日本文化が世界に羽ばたいていく様を表現し、日本文化が世界により広まっていくことを祈願した作品である。
ピーター・J・マクミラン(Peter MacMillan)
アイルランド生まれ。アイルランド国立大学卒業後渡米し博士号を取得。現在は東京大学非常勤講師、相模女子大学客員教授、武蔵野大学客員教授を務める。2023年、JICA初の文化担当講師に就任。2008年に英訳『百人一首』を出版し、日米で翻訳賞を受賞。その他日本での著書に、英訳『伊勢物語』、英訳『百人一首(新訳)』、『英語で味わう万葉集』、『謎とき百人一首──和歌から見える日本文化のふしぎ』、『英語で古典 和歌からはじまる大人の教養』、『シン・百人一首 現代に置き換える超時空訳』など多数。NHK WORLD「Magical Japanese」、KBS京都「さらピン!キョウト」に出演している。2024年、NHK「100分de名著」で百人一首の指南役を務める。その他番組に多数出演。同年、外務大臣表彰受賞。また秋の叙勲にて旭日小綬章受章。
『謎とき百人一首──和歌から見える日本文化のふしぎ』
ピーター・J・マクミラン[著]
新潮社[刊]
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