原作の「改変」が見事に成功したドラマ『SHOGUN 将軍』...日本「差別」が露わな小説から変わったこと
A New and Improved “Shogun”
虎永はブラックソーンと鞠子を使って天下統一の野望を遂げようとする(『SHOGUN 将軍』より、COURTESY OF FX NETWORKS)
<偏見だらけの歴史小説を、物語の筋は生かしつつ、日本視点の政治スリラーに衣替えして見応えのある作品に>
小説の映像化のように、既存の物語を別の媒体で作り直す場合の方法論はいろいろある。原作に可能な限り忠実に作るやり方もあれば、逆に原作をまるっきり改変する方法もある。前者の代表例が映画『ノーカントリー』なら、後者の代表例は『若草物語』を翻案した韓国ドラマ『シスターズ』だろう。
FXが6年をかけて制作し、現在ディズニープラスの「スター」で独占配信中の歴史ドラマ『SHOGUN 将軍』は、その中間を行く作品だ。原作はジェームズ・クラベルが1975年に発表した小説『将軍』だが、今回のドラマ化は見事の一言に尽きる。
ステレオタイプと東洋趣味が鼻につく原作を、それに忠実でありながらも、現代のグローバルな視聴者に向けた力強い歴史大河ドラマに仕立て直している。
物語の筋は原作とほぼ同じ。太閤亡き後、有力大名の吉井虎永(真田広之、モデルは徳川家康)は、征夷大将軍になって天下統一を果たす野望を胸に秘めていた。
そんな混乱期の日本にやって来たのが、イングランド人航海士のジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャービス)だ。目的は、日本におけるカトリック教会の勢力を弱め、イングランドの影響下に日本を置くこと。彼は虎永の配下となり、カルチャーショックに見舞われ苦労しながらも新しい世界に適応していくなかで、高貴な女性、鞠子(アンナ・サワイ)と出会う。
原作はまさに、一昔前の男性読者受けを狙ったような作品だ。歴史小説で、無骨な白人男性が主人公。彼は男性読者にとっては自分を投影できるようなタイプで、作中の女性からちやほやされ、最終的に絶世の美女を射止める。
ブラックソーンのモデルとなったのは西洋人ながら武士となり、家康のアドバイザーを務めた実在の人物、ウィリアム・アダムズ(三浦按針)だ。だがクラベルは、史実の枠を超えて物語を紡いだ。
小説にはかなりあからさまな人種差別が見られる。自分はこんな差別発言はしないと思いつつ、実際には差別意識を持っているタイプの男性読者なら、主人公に対して優越感と親近感の両方を抱いただろう。
日本人の登場人物は西洋人の名前をうまく言えない。クラベルはこれを面白がって書いている節がある。また日本女性はエキゾチックで好色な人形として描かれている。
自分たち以外の視点を持っていなかった出版当時の欧米の読者からすれば、進歩的な作品だったのかもしれない。物語が進むにつれ、主人公は日本と日本人の事情に思いを致すようになる。それは戦争時に日本軍の捕虜となったクラベル自身の体験を反映しているのだろう。