ドイツには「蛾」がいない?...私たちの「心」すら変えてしまう「言葉の力」とは
2024年01月20日(土)10時10分
いつだったか図鑑で調べ物をしていたときのこと。かつて見たこともない蝶のようなものが載っていた。
今思えば白くてとてもきれいだったのだが、そのときわたしの頭に真っ先に浮かんだ言葉は、「うわあ、きれい」ではなく、「これは蝶々? それとも蛾?」であった。
つまり、なによりもまず、これが蛾なのか蝶々なのかを知ろうとしたのである。そしてそれが蛾だとわかったとき、「なんだ、蛾か...」と興味を失ってしまったのだった。
興味を持たせることも失わせることもできる。そして味すら変えてしまう...。言葉の力はかくも大きいということだ。
[筆者]
平野卿子
翻訳家。お茶の水女子大学卒業後、ドイツ・テュービンゲン大学留学。訳書に『敏感すぎるあなたへ――緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』、『落ち込みやすいあなたへ――「うつ」も「燃え尽き症候群」も自分で断ち切れる』(ともにCCCメディアハウス)、『ネオナチの少女』(筑摩書房)、『キャプテン・ブルーベアの13と1/2の人生』(河出書房新社、2006年レッシング・ドイツ連邦共和国翻訳賞受賞)など多数。著書に『肌断食――スキンケア、やめました』、『女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語』(いずれも河出書房新社)がある。