最新記事
シリーズ日本再発見

インドネシアを走る「都営地下鉄三田線」...市民の足を支える日本の中古車両の行方は?

2023年09月17日(日)09時50分
𠮷岡桂子(朝日新聞記者)

日本の中古車両の運行やメンテナンスになじんだKCIは当初苦労するかもしれない。ただ、地場の企業を育てようとする政策は、どこの国も通ってきた道である。自国製の新車に転換していくのは、都市鉄道の需要の増加が見込まれるインドネシアなら当然ともいえる。

 
 
 
 

取材をしていると、技術などを含めた日本への肯定感に心くすぐられてくる。中古車両が外国で長く活躍する姿が日本で注目を集めるのは、単なる懐旧だけではないのではないか。異国で頑張る「日本」への承認と満足感が潜んでいるように感じる。

車内に残る日本語の表示の写真を撮りつつ、地元の人々はどんなふうに感じているのかな、と思った。

仮に、日本が戦後しばらく経っても、財政上の理由から米国から引退した車両を安く譲り受ける状態が続いていたとする。そこへ米国人観光客がやってきてはしゃいで写真を撮っていたら......?

ほほえましく受け止める人ばかりだろうか。複雑な感情を抱く人がいても、おかしくない。そんなことを考えて、早々にカメラをしまった。

「日本人は、よほど鉄道が好きなのだなあと思うだけだよ」

私が抱く懸念に対して、ジャカルタで会った国際政治学者はそう、笑っていたが......。


後編:「特急オホーツク」「寝台特急北斗星」がタイを走る...地元でも愛される、中古車両の幸せな「第2の人生」を追う に続く。


𠮷岡桂子(Keiko Yoshioka)
1964年岡山県生まれ。岡山大学法学部卒業後、山陽放送アナウンサーを経て朝日新聞記者。北京・上海特派員として約8年間、中国に駐在。2020年9月まで3年半、バンコクを拠点に20カ国以上を訪ねて中国の影響力を取材した。新刊『鉄道と愛国 中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた』(岩波書店)をはじめ、著書に『人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢』(小学館)、『問答有用 中国改革派19人に聞く』(岩波書店)、『愛国経済 中国の全球化』など。ユーラシアから中国を見ようと、23年秋からブダペスト在住。


 『鉄道と愛国 中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた
  𠮷岡桂子[著]
  岩波書店[刊]


(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

20241224issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月24日号(12月17日発売)は「アサド政権崩壊」特集。アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書

ワールド

米議会、3月半ばまでのつなぎ予算案を可決 政府閉鎖

ワールド

焦点:「金のDNA」を解読、ブラジル当局が新技術で

ワールド

重複記事を削除します
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 6
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 7
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 8
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 10
    トランプ、「トレードマークの髪型」に大きな変化が.…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中