最新記事
シリーズ日本再発見

「タイパ」に追われる現代人が忘れた、「緩む」ことの大切さ

2023年03月03日(金)11時00分
西田嘉孝

「例えば、子どもが大人からするとムダにも見える遊びに時間を忘れて没頭するのは、そこに本来の心や身体が求める『喜び』があるからです。頭だけの独裁モードで心身の側を奴隷のようにこき使ってしまうと、いずれ心や身体がストライキを起こしてしまう。また、常に追い立てられるようなメンタリティで生きることは、交感神経が活性し、動物で言えば常に戦闘状態にあるようなものですから、その状態が長期化するといずれ心身に何がしかの弊害が生じることが考えられます」

さらに泉谷氏は、「現代人は量的な情報ばかり追いかける傾向がありますが、思考とは本来、『空白の時間』があってこそ可能なものです。そうした内省する時間がなければ容易にAIに取って変られてしまうような『独自性のない人』が量産される社会になってしまいますし、そもそも人が真の満足や幸せを感じるには、量ではなく質にフォーカスした時間の使い方をすることが重要。例えばビジネスパーソンの方なら仕事の合間にきちんと『緩む時間』を設けるなど、心身が喜ぶ『間』をつくることが大切です」と指摘する。

では、具体的にどのような方法で「緩む時間」を取ることが効果的なのだろうか。

昼寝、ランチ、一服...自分を幸せにしてくれる時間が大事

「ポイントとなるのは、その時間が本当に自分を幸せにしてくれるだろうかということに目を向けること。『やらなければいけない』『やるべきだ』ということだけを追いかけている状態では心の声は聞けません。例えば、許されるなら昼寝をしてもいいし、ランチでは本当に食べたいものを食べたり、たばこを吸う人ならゆっくりと一服をしたり、自分なりの心地よさを見つけてその時間を味わうことが大切なのではないでしょうか」(泉谷氏)

実際、昼寝やおいしいランチに時間を使って「情報の洪水」から距離を置くことは、疲れた頭と心をリフレッシュして、また新たな気持ちで仕事に向き合うことに役立つはずだ。

またたばこを吸う人が一服することも、やはり心を落ち着ける効果が期待できる。そうやって目の前の作業からいったん離れる時間を持った時にこそ、新たなアイデアや解決法が浮かんできたという経験を持つ人も多いのではないだろうか。さらには喫茶店で美味しいコーヒーを飲んだり、レストランでゆったりと食事をしながら仲間と交わす会話や、喫煙スペースなどでの何気ないコミュニケーションが、思わぬ形で仕事に役立ったという人もいるかもしれない。

ただ言うまでもないことだが、そんな「緩む」時間にスマホを片手に大量の情報処理に追われていては意味がない。自分に合った方法でしっかりと「緩む」ための「間」を取り、本当の意味で心と身体が喜ぶ時間を取り戻すこと。そうしたタイパに終われないひと時を持つことこそが、次への一歩を踏み出す活力や新たな発想を生む源泉となるはずだ。まずは休憩の際に、スマホを見ないようにするということから始めてみてはいかがだろうか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ関税でナイキなどスポーツ用品会社

ビジネス

中国自動車ショー、開催権巡り政府スポンサー対立 出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中