健康の名の下に、娯楽、文化、ストレス解消法も制限されていく時代なのか
熊代氏が感じた疑問。それは池田氏と同様に、近年社会的な通念となった、たばこ及び喫煙に対する規制であり非喫煙者からの嫌悪感だ。熊代氏が続ける。
「受動喫煙における健康被害の実態が知られることで、それを防げるようになったことは、医療サイドの視点から見れば間違いなく進展です。ただ、社会におけるたばこの許容度はこの50年間で大きく変わり、喫煙そのものや喫煙者をも"良からぬもの"として見るようになった」
「健康被害を防止する、ある程度のレベルを超えたとき、以前のような喫煙に対する寛容さが減り、その歯止めが効かない社会情勢になっているように思う。これを私は行き過ぎではないか、このままで大丈夫かと懸念するわけです」
また熊代氏は、昨年4月に施行された改正健康増進法に対しても、どこか違和感を抱いているという。
「誰から見ても"良いこと"のように見える外観であるように感じます。いまの時代、健康が普遍的価値に近い位置づけになっているからこそ、それを増進してなにが悪い? みんなのためになるじゃないか、という姿をしているように見受けられるのです」
熊代氏は「今後、健康の名の下に私たちの行動や娯楽、文化などの選択肢が否定されていくことになったら怖いなと感じました」と話す。
つまり、たばこのみならず、アルコールやギャンブル、ゲームなど、やりすぎることで健康被害に加え身を持ち崩す可能性のあるモノゴトに対して、さらに制限が課されるという流れも十分に考えられるというわけだ。
「そうした流れに対して、明確にストップと言えるなにかを私たちが持っているかどうか。もちろん、たばこの吸いすぎやお酒の飲みすぎなど、明らかに健康を害する行為に対して啓発し、対処を行うことは医師である以上、否定すべきではない。だが健康リスクを自覚しつつそれらを人生の楽しみとしている方たちに対して、のべつ幕なしに『NO』と言っていいものか、私には分かりかねます」
もちろん、たばこの吸いすぎや酒の飲みすぎには注意すべきだろう。しかし、それらによってストレスを解消できたり、リラックスできたりする人がいることも確かだ。
健康的ではない行為のすべてを否定し、排斥するような不寛容な世の中でこれからの人生を過ごさなければならないとしたら、それはとても息苦しく、それこそストレスフルな人生ではないだろうか。