最新記事
シリーズ日本再発見

健康の名の下に、娯楽、文化、ストレス解消法も制限されていく時代なのか

2021年05月31日(月)11時20分
高野智宏

たばこは7世紀の古代マヤ文明に発祥したとされ、コロンブスの大航海により16世紀以降、世界中へと広がっていき、日本には16~17世紀に渡来したとされる。

「その文化が今日まで続いているんだから、なんらかのメリットがあるのは明白。江戸時代の日本ではたばこは薬として認識されていたくらい。また、養老孟司(解剖学者)や内田樹(フランス文学者)など、僕の周りにいる頭脳労働者の多くが現役の喫煙者だから。脳の回転に影響を及ぼすのでしょう。あ、(明石家)さんまもそう。さんまなんてたばこをやめたら、あの当意即妙なしゃべりができないんじゃないかな」

また池田氏は、たばこが喫煙者にとっての有効なストレス解消法であることも肯定する。現在とは異なる昔の話だと断りつつ、こんなエピソードも教えてくれた。

「東北で野外調査をしていたときは、仕事が一段落すると『池田さん、たばこしよう』って誘われたけど、あれは休憩しようよという意味。たばこ=休憩=リラックスなんだよね。山梨大学にいた頃は教授会でもみんなたばこを吸っていたけど、僕の隣りにいた国語の教授は教授会にピース缶を持ち込んでいたくらいだから(笑)」

現在は喫煙していないものの、実は20代の頃の池田氏は「1日に80本は吸っていた」というヘビースモーカーだった。33歳の頃に風邪をひいたことをきっかけに、非喫煙者へと転じたという。

「咳が止まらなくなって、自分はたばことは合わない体質なんだと分かり、やめたんです。つまりは個人差であり耐性も人による。たばこを吸っていても健康な人はいるし、非喫煙者でも肺がんになる人もいる。お酒も同じです」と、池田氏。

「そうした個人差を無視して法律ですべてを規制するのは乱暴だし、受動喫煙による健康被害を掲げるのも、結局は権力の行使をオブラートで包み隠す官僚の大義名分だから」

お酒やギャンブル、ゲームへの制限に「NO」と言えるか

そんな、たばこに対する風当たりの強い状況に「昨今の喫煙室の状況を見ても、本当に喫煙者の生息域が狭められていると感じています」と言うのは、精神科医の熊代亨氏だ。

「そうしたプロセスから透けて見える"とめどなく健康が推進されていった未来"に対して、本当にこれでいいかと非喫煙者ながらに疑問を感じたのが、『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)を書く上で、とても大きなヒントとなりました」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中