健康の名の下に、娯楽、文化、ストレス解消法も制限されていく時代なのか
たばこは7世紀の古代マヤ文明に発祥したとされ、コロンブスの大航海により16世紀以降、世界中へと広がっていき、日本には16~17世紀に渡来したとされる。
「その文化が今日まで続いているんだから、なんらかのメリットがあるのは明白。江戸時代の日本ではたばこは薬として認識されていたくらい。また、養老孟司(解剖学者)や内田樹(フランス文学者)など、僕の周りにいる頭脳労働者の多くが現役の喫煙者だから。脳の回転に影響を及ぼすのでしょう。あ、(明石家)さんまもそう。さんまなんてたばこをやめたら、あの当意即妙なしゃべりができないんじゃないかな」
また池田氏は、たばこが喫煙者にとっての有効なストレス解消法であることも肯定する。現在とは異なる昔の話だと断りつつ、こんなエピソードも教えてくれた。
「東北で野外調査をしていたときは、仕事が一段落すると『池田さん、たばこしよう』って誘われたけど、あれは休憩しようよという意味。たばこ=休憩=リラックスなんだよね。山梨大学にいた頃は教授会でもみんなたばこを吸っていたけど、僕の隣りにいた国語の教授は教授会にピース缶を持ち込んでいたくらいだから(笑)」
現在は喫煙していないものの、実は20代の頃の池田氏は「1日に80本は吸っていた」というヘビースモーカーだった。33歳の頃に風邪をひいたことをきっかけに、非喫煙者へと転じたという。
「咳が止まらなくなって、自分はたばことは合わない体質なんだと分かり、やめたんです。つまりは個人差であり耐性も人による。たばこを吸っていても健康な人はいるし、非喫煙者でも肺がんになる人もいる。お酒も同じです」と、池田氏。
「そうした個人差を無視して法律ですべてを規制するのは乱暴だし、受動喫煙による健康被害を掲げるのも、結局は権力の行使をオブラートで包み隠す官僚の大義名分だから」
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そんな、たばこに対する風当たりの強い状況に「昨今の喫煙室の状況を見ても、本当に喫煙者の生息域が狭められていると感じています」と言うのは、精神科医の熊代亨氏だ。
「そうしたプロセスから透けて見える"とめどなく健康が推進されていった未来"に対して、本当にこれでいいかと非喫煙者ながらに疑問を感じたのが、『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)を書く上で、とても大きなヒントとなりました」