2020年の日本の外食産業に差した3つの光
成功例として、某居酒屋チェーンが全店で導入した月額500円でおつまみとドリンクのほぼすべてが半額となるサブスクが、スタート1カ月で9000人の会員を獲得し、現在も堅調に会員数が伸びている。また、焼き魚が売りの食堂では、月額980円でテイクアウト商品が半額となるプランを4月に開始したところ、5月の売り上げがコロナ禍にあって前年同月比154%を達成したという。
「favyサブスク」のリリースから約1年が経過した今、導入店舗は2000店を超える。対象店舗は大手チェーン店から個人経営の居酒屋、カフェから高級レストランまでと業態を問わない。また、飲料メーカーや商業ビルが同社と契約することで、卸し先やテナントの飲食店で利用できるようになった結果、導入店舗数が急増。現在、申し込みが4000件にも上るという。
利用者にとっては、ただお得というだけではない。「お店を応援する気持ちも強いと思います」と、高梨氏。実際、コロナ禍で契約飲食店が休業したり営業時間を短縮したりしていた春にも、サブスクを解約せずにいた利用者が多かったという。まさに「応援需要」を汲み取ったサービスだ。
カフェに男性客を増やした「テレワーク需要」
テレワークが広まった2020年、シェアオフィスのみならずカフェでも、パソコンを操作するビジネスマンの姿を多く見かけるようになった。「もともとは女性客の割合が高い」(タリーズコーヒージャパン広報室・山口さほり氏)というタリーズコーヒーでも、その傾向は顕著だったようだ。
自宅以外で集中して作業したい――そんなカフェにおける「テレワーク需要」を受け、同社は11月25日、東京大田区の新しい複合施設「羽田イノベーションシティ」内に新規店舗をオープンした。
一般的なタリーズコーヒーの店舗とは違う。ビジネスユーザーに向けた半個室のワークスペースを9ブース用意しており、ウェブ上で空き状況の確認と予約も可能だ。利用料金は30分200円~となるが、年内はトライアル期間のため無料で利用できるという。香り高いコーヒーを傍らにすれば、仕事もより捗ることだろう。
「ビジネスユーザー向けのブース設置は、タリーズとして初の試み」(山口氏)というが、同社は2004年、国内で初めて病院内(東大病院)に店舗を開設した「病院内カフェ」のパイオニア。コロナ対策も消毒の徹底に頻繁な清掃、そして、レジ前のビニールシートや客席間の衝立(ついたて)配置など万全の体制を敷くとともに、これを機に全商品のテイクアウトが可能であることをより前面に打ち出すなど、前向きな姿勢は変わらない。
さて、カフェと言えば、バーなどのアルコールを提供する店舗同様に、喫煙者の利用が多い業態だ。4月に全面施行された「改正健康増進法」を機に完全禁煙に変更したカフェも存在するなか、タリーズコーヒーは路面店や直営店を中心に、紙巻きたばこの喫煙が可能な喫煙専用室(飲食は不可)、または加熱式たばこのみ可能な加熱式たばこ専用喫煙室(飲食も可)を設けた店舗などを存続させている。その理由を山口氏に聞く。
「常連のお客様の中には喫煙者の方もいらっしゃいます。そうした現状を無視して、すべての店舗を完全禁煙にすることは考えていませんでした。さるアンケートによれば、喫煙者の7割程度は紙巻きたばこを嗜んでいるとのデータもあり、そうしたお客様の多い店舗では紙巻きたばこの喫煙が可能なブースを設けています」
各店舗における受動喫煙防止策は「現時点のもの」で、「立地や傾向などを鑑み、対応・変更していきます」と山口氏。しかしそれは、喫茶店でコーヒーとともにたばこを喫するという文化を否定し、完全禁煙へと向かうものではない。「お客様のニーズに沿って、皆さんに気持ちよくご利用いただけるよう、随時、対応させていただこうと思っています」と、山口氏は続けた。
テレワーク需要は2021年もなくなることはないだろう。であれば、タリーズコーヒーに限らず日本全国のカフェで、ビジネスマンの姿はさらに増えていく。利用可能なWi-Fiやコンセントがあるか、分煙対策はしっかりしているかなどがポイントになるかもしれない。
テイクアウト&デリバリー、常連店への応援、そして、テレワーク――。
飲食店に深刻な打撃を与えた新型コロナウイルスだが、コロナ禍だからこそ見えたヒントやチャンスを活かし健闘している企業があるのも事実だ。そんな飲食店がひとつでも増え、この未曾有の危機を乗り越えてほしいと願うばかりだ。