最新記事
シリーズ日本再発見

ウィズコロナの教育は「オンラインでやればいい」では解決しない

2020年07月10日(金)16時30分
島田昌和(学校法人文京学園理事長・文京学院大学教授)

子供たちの時間は止まらない。身につけるべきタイミングは去って行ってしまう。国際人のベースを作ることができない世代ができてしまう。

国境を越えた地球レベルの自然環境の悪化や新型コロナウイルスのような未知のリスクが増える中、生存を掛けて国家間の軋轢が増すだろう近未来に必要なのは、拠って立つところが違う相手のことをおもんばかれる多様性を身につけた人材がどれだけいるかである。どうしたら多様性を身につける教育に断絶をつけずに、次世代を育てることができるだろうか。

対面で刺激を与え合うことが成長には必要

世界の大学はすでにオンラインプログラムを多彩に用意しているのだから、この際もっとそれにトライすればいい、という日本の学校の枠にとらわれる必要のないアプローチがまずあるだろう。当然、推奨される一つの選択かもしれない。

であるが、世界中の学生を多数集めてきた米英の大学は、キャンパスで暮らし、教室で議論することに実は高い価値を置いている。オンライン学生の学費水準を低く設定していて、この情勢下でそれのみでは大学の財政を維持できないという、いわば自己矛盾が日本でもわかるようになった。

ハーバード大学の授業は無料でネットで聞くことができたわけだが、講義そのものに学費の価値を置いているのではなく、議論しリアクションし、厳しい評価を受けてそれが認められて学位を得ることに対して、高い学費に見合う価値を提供している構造であったことを誰しも知るところとなった。

いま、キャンパスを持たないミネルバ大学という仕組みが世界の注目を浴びているが、授業はオンラインでも世界中を回りながらで寮で共同生活をすることを組み合わせている。やはり、対面での刺激を与え合うことが成長に必須と考えているのだろう。

このように見ず知らずの人間同士の共同生活を必ず組み込んできた米英の大学教育システムは、クラスターになりかねない共同生活を今後コロナ共存社会の中でどうするのか、悩ましいことだろう。ということで選択肢としてはあるが、英米の大学の動向がベストと言い切れない状況の中、日本の教育機関はどうするだろうか。

インターを敷地内に誘致するという試み

東京大学はこの4月をアカデミックカレンダー通りにリモート授業で開始し、他の大学との差異を見せつけた。全面リモート移行を短期間で成し遂げたリーダーシップと合意形成は脱帽せざるを得ない。さらに、ステイホームを余儀なくされる世界中の英知をどしどしリモート授業に登場させたとも聞く。

先んじて行動したことの果実は計り知れないほどあったようである。このような先行事例をどこの大学も追いかけることだろう。

とはいえ、これは英米大学の共同の寮生活による教育効果の代替手段とはなっていない。私が理事長を務めている文京学園が設置する文京学院大学(東京)と文京学院大学女子中学校・高等学校(東京)でどのように対処しようとしているかを挟みながら、学生・生徒同士の交流によるグローバル教育の可能性を考えてみたい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中