岡山・群馬の地方創生は、あの起業家が担っている
現在では、市内の中央通り商店街シャッター物件の再開発も進める。都内有名料理店の料理長が家族で引っ越してきてオープンしたイタリア料理店「GRASSA」や、前橋の銘菓を生み出す「なか又」、都内のミシュランレストランのオーナーが前橋ビジョンに共感して開業準備したとんかつ屋「前橋カツカミ」など、この輪が広がり、新たな出店が続いている。
その先に見る未来は、デザイン都市への進化だ。田中さんが本業で手がけるメガネ型ウエアラブルデバイスの「JINS MEME」や、世界一集中できる環境を目指す会員制ワークスペースの「Think Lab」に関わる研究から、環境が五感に与える影響も科学的データで分かってきた。
そこで、まちづくりのコンセプトに「Green&Relax」を掲げ、ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)を実現する都市として、さまざまなプロジェクトやコラボレーションを推し進めている。ミケーレ・デ・ルッキやジャスパー・モリソン、レアンドロ・エルリッヒなど、世界の名だたるデザイナーやアーティストも前橋のまちづくりに賛同している。
「もし1つしか地域貢献ができないとしたら......」
一方、岡山芸術交流に総合プロデューサーとして関わり、8月半ばに『学びなおす力――新時代を勝ち抜く「理論とアート」』(PHPビジネス新書)の著書も出す石川さんは、「瀬戸内アートリージョン」という構想も思い描いている。今年は「瀬戸内国際芸術祭2019」の秋会期が、岡山芸術交流と同時期に開催される。
瀬戸内は今、世界的に注目を集めるエリアだ。英ナショナル・ジオグラフィック・トラベラー誌で「2019年に行くべきデスティネーション」の1位を獲得。ニューヨーク・タイムズでも7位に選ばれた。
「新幹線や瀬戸大橋など、岡山を交通の結節点にして、直島や尾道、小豆島など、瀬戸内全体を自然やアートとともに楽しんでいただく。これはグローバルに届けられる地域の価値だと思います」と、石川さんは言う。
とはいえ、石川さんの情熱もアートにとどまるものではなく、冒頭で述べたように「教育」もキーワードの1つだ。石川さんは2010年に、経営や文化、研究など、岡山の各分野で活躍する49歳以下の人を顕彰する「OKAYAMA AWARD」を創設。これまでの10年間で約130人の受賞者を出した。
このアワードの顧問には、100人以上の地元の有識者も名を連ねている。石川さんの言う「岡山の新しいヒーロー」をさまざまなかたちで支援するための、マッチング・プラットフォームの機能も担っているという。
また、2019年春からは岡山大学と提携し、「SiEED」というプログラムを開講した。未来創造に向けた新たな学びの場と位置付け、アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)、組織内から改革するイントラプレナーシップ(Intorepreneurship)の面での育成を目的としている。
「1つしか地域貢献ができないのだとしたら、私は『教育』というワードを選ぶと思います」と、石川さんは地域貢献に賭ける覚悟を語った。