最新記事
シリーズ日本再発見

岡山・群馬の地方創生は、あの起業家が担っている

2019年08月07日(水)11時30分
井上 拓

現在では、市内の中央通り商店街シャッター物件の再開発も進める。都内有名料理店の料理長が家族で引っ越してきてオープンしたイタリア料理店「GRASSA」や、前橋の銘菓を生み出す「なか又」、都内のミシュランレストランのオーナーが前橋ビジョンに共感して開業準備したとんかつ屋「前橋カツカミ」など、この輪が広がり、新たな出店が続いている。

その先に見る未来は、デザイン都市への進化だ。田中さんが本業で手がけるメガネ型ウエアラブルデバイスの「JINS MEME」や、世界一集中できる環境を目指す会員制ワークスペースの「Think Lab」に関わる研究から、環境が五感に与える影響も科学的データで分かってきた。

そこで、まちづくりのコンセプトに「Green&Relax」を掲げ、ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)を実現する都市として、さまざまなプロジェクトやコラボレーションを推し進めている。ミケーレ・デ・ルッキやジャスパー・モリソン、レアンドロ・エルリッヒなど、世界の名だたるデザイナーやアーティストも前橋のまちづくりに賛同している。

「もし1つしか地域貢献ができないとしたら......」

一方、岡山芸術交流に総合プロデューサーとして関わり、8月半ばに『学びなおす力――新時代を勝ち抜く「理論とアート」』(PHPビジネス新書)の著書も出す石川さんは、「瀬戸内アートリージョン」という構想も思い描いている。今年は「瀬戸内国際芸術祭2019」の秋会期が、岡山芸術交流と同時期に開催される。

瀬戸内は今、世界的に注目を集めるエリアだ。英ナショナル・ジオグラフィック・トラベラー誌で「2019年に行くべきデスティネーション」の1位を獲得。ニューヨーク・タイムズでも7位に選ばれた。

「新幹線や瀬戸大橋など、岡山を交通の結節点にして、直島や尾道、小豆島など、瀬戸内全体を自然やアートとともに楽しんでいただく。これはグローバルに届けられる地域の価値だと思います」と、石川さんは言う。

とはいえ、石川さんの情熱もアートにとどまるものではなく、冒頭で述べたように「教育」もキーワードの1つだ。石川さんは2010年に、経営や文化、研究など、岡山の各分野で活躍する49歳以下の人を顕彰する「OKAYAMA AWARD」を創設。これまでの10年間で約130人の受賞者を出した。

このアワードの顧問には、100人以上の地元の有識者も名を連ねている。石川さんの言う「岡山の新しいヒーロー」をさまざまなかたちで支援するための、マッチング・プラットフォームの機能も担っているという。

また、2019年春からは岡山大学と提携し、「SiEED」というプログラムを開講した。未来創造に向けた新たな学びの場と位置付け、アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)、組織内から改革するイントラプレナーシップ(Intorepreneurship)の面での育成を目的としている。

「1つしか地域貢献ができないのだとしたら、私は『教育』というワードを選ぶと思います」と、石川さんは地域貢献に賭ける覚悟を語った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中