岡山・群馬の地方創生は、あの起業家が担っている
ピエール・ユイグ《未耕作地》 2012 ©岡山芸術交流実行委員会 写真:市川靖史
<行政ではなく気鋭の経営者が、地方活性化をリードする時代になった。今なぜ増えているのか。どんな活性化をもたらしているのか>
9月27日から約2カ月間、岡山県岡山市で「岡山芸術交流2019」が開催される。岡山城や岡山後楽園周辺の徒歩圏エリアを会場とした国際現代美術展だ。3年ごとの開催で、今年が2回目となる。
同展では、市内の歴史・文化施設を散策しながら、世界で注目を集める現代美術家のアート作品に出合うことができる。2016年の初開催時には、人口70万人超の岡山市で述べ23万4080人の来場者数を記録した。フランス人の現代美術家ピエール・ユイグ氏をアーティスティックディレクターに迎えた今回も、インバウンドをはじめとする地域交流人口の拡大など、大きな期待が寄せられている。
意外かもしれないが、岡山芸術交流の総合プロデューサーは、アート界の著名人などではない。国内外で活躍する起業家、「アースミュージック&エコロジー」などのファッションブランドを展開するストライプインターナショナル代表取締役社長兼CEOの石川康晴さんだ。
石川さんは、2014年に「石川文化振興財団」を設立。文化や教育に注力し、岡山をより活性化するべく、岡山芸術交流をはじめ、さまざまな活動に取り組んでいる。生まれ故郷であり、創業の地である岡山に恩返しをしたいとの思いからだ(同社は今も岡山市に本社を置いている)。
「岡山芸術交流では、子供たち、地域の人たちに創造力を提供したいと思っています。創造力は、AIなどと伴走していく人間に求められてくる力ですから。私が幼少の頃は、コンビナートやパン工場を社会見学していましたが、嬉しいことに現代アートを見ることも教育というフェーズに変わってきています」
すでに県内55校(前回は46校)を超える小・中学校が郊外活動や部活動等で鑑賞することが決まっている。地域の企業からも、社員のエデュケーションプログラムとして訪問ツアーの相談が数多く寄せられているという。
起業家が地域を盛り上げる。これは何も、岡山だけで起こっていることではない。
会社を大きくして、税金を納める――だけでいいのか
起業家が文化や地域のパトロンとなり、地方活性化の推進を自ら担い、社会へ還元していくという機運は、日本各地で高まりつつある。群馬県前橋市もその1つだ。岡山の石川さんも「呼吸が合っています」と評する取り組みである。
アイウエアブランド「JINSジンズ」の代表取締役CEOである田中仁さん。故郷である群馬の起業家育成と豊かな地域社会の実現に情熱を傾ける起業家だ。会社経営とは切り分け、私財を投じて「田中仁財団」を設立した。
社会貢献の芽生えは、2011年6月にさかのぼる。大手会計事務所のアーンスト・アンド・ヤングが起業家を表彰する「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」の日本代表に選ばれ(石川さんも2013年に選出されている)、モナコで開催された世界大会に参加。約50カ国の起業家との対話や「個人の社会貢献活動」の評価項目などを通じて、起業家として、自らの使命を改めて考える大きな契機になったという。