最新記事
シリーズ日本再発見

平成の若者「〇〇離れ」と、メーカーの「好消費」開発

2018年11月01日(木)11時30分
高野智宏

彼ら嫌消費世代の意識が消費行動に最も現れている例が、先の3つの中でも酒、とりわけビールであるという。確かに「とりあえずビールで!」という言葉に象徴されるように、バブル期までビールはあらゆる飲み会における定番のお酒だったが、今は違う。

「バブル崩壊でそうした機会は大幅に減りましたし、そもそも会社に忠誠心もない彼らは会社の飲み会であれ平気で出席を断ります。とはいえ、お酒が嫌いというわけではないので、恋人や友人と、または一人での宅飲みとなる。となれば、暗黙の了解であったビールではなく、最初から好きなお酒をオーダーし、購入するというわけです」

一方、車離れに関しても、その先頭を走るのが嫌消費世代であると松田氏は言う。駐車場代をはじめ、ガソリン代や車検代などコストだけが理由ではないのだ。

「彼らは車に象徴的な価値を認めていないのです。バブル期は、ある程度の車でなければ彼女もできないと言われた時代。しかし、嫌消費世代はそうした意識を全否定し、車を移動手段としか見ていません。必要ならタクシーやレンタカーで十分だし、今はカーシェアリングもあります」

象徴的な価値を認めないとなれば、それはたばこも同様だろう。1998年にたばこ銘柄のCMが自主規制され、2004年には財務省の指針により全メディアにおけるたばこ銘柄の広告規制が強化された。主要メディアであったテレビで、憧れの俳優やタレントが格好よくたばこを吸う姿を見なくなれば、たばこに象徴的な価値を見出せなくなるのも無理はない。

しかも、同調圧力が強く、空気を読むことに長けた世代だ。たばこのにおいなどで肩身の狭い思いをするくらいなら、「たばこにお金をかける必要はない」という意識を持ったとしても、致し方ないことだろう。

新たな商品やサービスの開発で「好消費」への転換を

とはいえ、ネガティブな話ばかりではない。こうした苦境に対し、酒、たばこ、車の各業界は新たな商品やサービスの開発で「好消費」への転換を狙っているのだ。

酒でいえば、国内外の中小メーカーが少ロットで独創的な味わいを追求したクラフトビールが、若者世代を中心に人気を博している。大手も追従し、キリンビール社長は「普段なかなかビールを飲んでいただけない若者らにも反応がよい。先頭をきってクラフトビールの市場を拡大したい」と、朝日新聞の取材に答えている。

また、世界的な品評会で高い評価を得たことをきっかけに、今やジャパニーズウィスキーは世界的な品切れ状態だ。さらに、長年消費低迷にあえいできた日本酒業界も、経営者や杜氏の若返りにより、クラフトビール同様に個性的な銘柄が続々と登場し人気を獲得。近年では消費量も回復の兆しを見せている。

車も大きな転換期にある。ガソリン車からハイブリッド車への移行が進み、EV(電気自動車)の販売台数も増加し、普及が進みつつある。

また、衝突回避ブレーキや車間距離制御装置、自動駐車システムといった先進の安全機能の数々は、運転自体を躊躇しがちなドライバーには大きな安心材料となるだろう。「そうした環境への配慮や安全機能搭載の影響か、弊社による家計調査では、20代の車への関心がここ数年で3%程度上昇しています」と、松田氏もその変化を認識する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中