10年目の「ふるさと納税」に逆風 返礼品に頼らない「2.0」の時代へ
2012年には100億円ほどだったものが、2014年に約390億円、2016年に約2800億円と急上昇を見せたのである。自治体単位でも、平戸市(長崎県)が2014年に初めて10億円の大台に乗ったのを皮切りとして、以降は年間に数十億円を集める市町村が続出した。
ふるさと納税のおかげで財政収支がにわかに改善され、新たな取り組みや住民サポートを始めたり、集まった寄付金の使用目的に応じた基金を設置したりした自治体も次々に現れた。一方で、明らかにふるさと納税の影響で税収が下がった自治体も、東京23区を中心に存在する。日本の地方自治において、一種の「財政革命」が起きたと評しても過言ではない。
牛1頭から車1台まで!? 加熱する返礼品競争
結果、豪華な返礼品を用意して注目を集める自治体間の競争が熾烈になった。
九州南東部の都城(みやこのじょう)盆地に位置する一大畜産地帯である三股町(宮崎県)は、300万円以上の寄付に対し、宮崎牛1頭の牛肉を返礼品にして話題をさらったし、隣の都城市は、牛肉と焼酎という2大返礼品を切り札にして、2015年から2年連続で全国最高額のふるさと納税を集めてみせた。
かつて視察でやってきた総務省の役人に、都城の市名を「とじょう」と読み間違えられた屈辱的エピソードをも撥ねのける躍進ぶりである。
約130万円相当のシルク製コートを返礼品として用意した富岡市(群馬県)や、30万円の寄付に対して20万円相当のノートPCを返礼した安曇野市(長野県)なども全国から注目を浴びた。
しかし、これといった派手な特産品を持たない自治体は、ふるさと納税でなかなか成果が出せなかった。苦しまぎれに、民間企業の商品券やポイントなどを返礼品としたために、転売目的のふるさと納税も横行した。法律で義務づけられた検査を通していないコシヒカリを返礼品とした自治体もあった。
また、ふるさと納税は高収入の世帯ほど節税効果が高い点が、不公平だとして世間に伝わった。都内のタワーマンションの郵便受けに、ふるさと納税の宣伝広告を投函する業務を各自治体から請け負う業者も現れ始めた。
500万円以上のふるさと納税者を対象に、市内に工場があるスバルの乗用車で返礼したいと発表した太田市(群馬県)の清水聖義市長は、こんな身も蓋もない率直な発言で物議を醸したことがある。
「ふるさと納税は金持ち優遇、スバル車を謝礼品に加えたのは、総務省へのせめてもの抵抗です」「六本木ヒルズに住んでいるような人から、寄付を受け取りたい」(結局、スバル側との交渉が折り合わず撤回)
ふるさと納税に参加する人々の関心が「自分たちの損得」ばかりとなり、市町村の活動や寄付金の使い途などにはなかなか興味が示されない。届いた返礼品を食べた後は、自治体のことも忘れられてしまう。
まさに「金の切れ目が縁の切れ目」の状態となりつつあった。