最新記事
シリーズ日本再発見

ニューヨークのミシュラン和食屋料理長が明かす、アメリカ人の好み

2017年11月30日(木)21時30分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

日本で食べるよりおいしい魚もある

――刺身は日本から空輸しているものの方がおいしいという先入観があったのだが。

そんなことはない。ニューヨークには、日本人に教えてもらって「生け締め」を上手くできるようになったアメリカ人も少数だがいる。

日本で言う生け締めとは、基本的には釣った魚をその場で漁師が締めたり、いけすで生かしておいた魚を生きたまま市場に持って行き、市場の職人が締めるというシステムだ。日本はそうした流通機関がしっかりしているし、魚の管理能力が半端ではない。

ニューヨークではそんなことやっていないし、やれる人もいなかった。そもそもここでは、レストランで魚をいけすなどで生かしておいて自分たちで締めることは違法だ。ロブスターなど甲殻類は規定がないのだが。

饗屋では、生きている魚を扱っている魚屋で仕入れる日の朝に締めてもらっている。

だが、全ての魚でそれをやる必要はないし、寝かせておいしい魚もたくさんある。

管理された魚を日本から入手することもできる。例えば、今だと下関からのトラフグが皮を剥いて中の内臓を取った状態で、「みがき」になって入ってくる。真空パックで冷凍されてやって来るのだが、その身も素晴らしい。これはやはり、日本の技術なのだと思う。

――日本で食べるよりもおいしいと思う魚はあるか。

大西洋マグロのほかに、サバもいい。特にボストンのサバはすごくいい。ここ数年いなかったのがこの1~2年で戻って来ていて、サイズは少し小さいが脂が乗っていてとてもおいしい。

日本でサバを養殖しているというのはすごい技術だが、やはり天然の、その中でも釣る人が「この時期に釣ったものはおいしい」と見極めて釣ったサバの方がおいしい。日本から仕入れた天然サバの場合、ボストンのサバほどではない場合が多々ある。

饗屋で出している「炙り〆鯖の棒寿司」には、デンマークのサバを使っている。同じ北欧だとノルウェーのサバもよく獲れるのだが、ノルウェーのサバは脂、つまり水分が多すぎて、煮たり焼いたりするには適していても締めて食べるのには向かない。

japan171130-3.jpg

デンマークのサバを使った人気メニュー「炙り〆鯖の棒寿司」 Satoko Kogure-Newsweek Japan

鯖の棒寿司に、脂は必要以上には要らない。店の開店前に仕込んでおいてお客さんに出すまでに最低3時間、できれば5時間くらい置いておくと、シャリにサバのうまみが回り、一体化されておいしくなる。

――魚の仕入れ先は、常に世界中から探しているのか。

探している。店をオープンしたての頃は誰からも相手にしてもらえないので自分で調べて開拓していたのだが、ミシュランで星をもらったりと名前が知られるようになってきたら、魚屋さんが向こうから食材のサンプルを持ってきてくれるようになった。「うちにはこんなものがあります、使ってみて下さい」と。

ワインなどはイタリアから業者さんが来たりもする。特にミシュランはヨーロッパが本拠地なので、ニューヨークという大きなマーケットに向けてヨーロッパから売り込みに来る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル大統領、米が関税賦課なら報復の構え

ワールド

米旅客機空中衝突事故、生存者なしか トランプ氏は前

ビジネス

米GDP、24年第4四半期速報値は+2.3%に減速

ワールド

グーグルの「アメリカ湾」表記変更は間違い、メキシコ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望している理由
  • 4
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 5
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 6
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 9
    世界一豊かなはずなのに国民は絶望だらけ、コンゴ民…
  • 10
    トランプ支持者の「優しさ」に触れて...ワシントンで…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 6
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 7
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 8
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 9
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中