ニューヨークのミシュラン和食屋料理長が明かす、アメリカ人の好み
かつお節そのままの輸入は当初違法だった
――ニューヨークと日本で、水に違いはあるか。
ある。ニューヨークの水は軟らかくておいしい。硬いよりも軟らかいほうが出汁(だし)が出やすいので、水に限って言えばニューヨークは和食に適していると言える。
あとは、その水をどのように「ろ過」して使うかだ。ニューヨークはビルが古いし、貯水タンクもだいたい建物の上のほうについていて、そこから水道管で降りてくる。水道管によっては1800年代~1900年代初頭のものもあるので、何を使ってろ過するかがポイントだ。
饗屋ではロケットのような大きなろ過装置を2つ設置していて、トイレの水まで全てろ過している。
ニューヨークの水は、飲んでもおいしい。自分は北海道出身だが、高校の修学旅行で東京に行った際にホテルで水道水を飲んで衝撃が走った。「まずっ!」と(笑)。「水に味がついている!」と、びっくりした。その経験があったのでニューヨークの水を心配していたのだが、意外にも美味しかった。
――「アメリカ人の客」を想定してメニューを作ることはあるか。アメリカ人に人気の「味」と言うと?
アメリカ人は甘い味付けが好きだとか、スパイシーなものが好きだとかはもちろんあるが、アメリカ人向けに変えることは一切ない。全て、自分がおいしいと思うものを出している。
饗屋でアメリカ人の客に人気の「味」というと、やはり出汁だ。
かつお節というのはカビ付けされていて、例えば本枯節だったら半年くらいカビ付けして、白くなったものを削って中を使う。
カビが食材として国外から入ってくるというのはアメリカ側としては受け入れられないので、かつお節を丸のまま輸入するのは違法だ。だが日本政府が交渉してくれた結果、真空パックの削り節に限り認められるようになった。
饗屋では大量の出汁を使うので、愛媛のカツオ問屋さんに自分が調合した削り節を送ってもらっている。直火で炙ったカツオにしているのでかすかにスモーキーで、うちの出汁を飲んで感動してくれるアメリカ人はたくさんいる。
饗屋に来るアメリカ人のお客さんは日本食通であり、味に対してプロフェッショナルな方達が多い。そんな彼らが喜ぶのが出汁だ。
――特にアメリカ人に人気のメニューと言えば。
胡麻豆腐、サツマイモの天ぷら、海老しんじょう、豚の角煮......。魚だと、西京焼き。
今は「銀鱈の粒味噌焼き」が定番だが、うちでは「白粒味噌」にみりん等の甘みを加えないまま使っているので、一般的な西京焼きと違って甘くない。味噌自体がおいしいので、味噌の甘さだけで出している。
これを食べたアメリカ人はみんな、どこで食べても普通は甘いのにここは甘くないよねと言う。アメリカ人は甘いのが好き、と言われるが、そうではない人もたくさんいる。
あと人気があってやめられないのが、「鰻有馬煮のサンドウィッチ」(ウナギのかば焼きをバターを塗った食パンに挟んだメニュー)。ニューヨークの人は皆さんウナギが好き。ウナギのタレの、バランスのとれた甘辛が好きなのだろう。
鰻丼も、甘すぎるところだとたくさんは食べられない。すごく甘いと途中で飽きてしまって、「美味しかったけどもうお腹いっぱい」となるが、ちょうどいいバランスの甘さだと最後まで全部食べられて、「あぁ、美味しかった!」と言える。
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