東京五輪が中小企業に及ぼすマイナス影響
新国立競技場の建設現場(2017年5月) Issei Kato-REUTERS
<東京五輪の経済効果についてはさまざまな数値が出ているが、本当にプラスの効果を得られるのか。中小企業にとっては、バラ色の五輪とならないかもしれない?>
東京オリンピック・パラリンピックの開催まで、いよいよ3年に迫った。開催地・東京ではハード・ソフト両面での準備が進められている。何といっても世界的なスポーツ大会であり、経済効果が大きい。
その経済効果だが、実際どのくらいになるのだろうか。
東京都は今年3月、2013年から開催10年後の2030年までで、経済効果は約32兆円との試算を発表した。しかし開催決定前の2012年には、約3兆円(期間は2013~20年)と試算している。一方、みずほ総合研究所は30兆円規模というレポートを出しており、他にも約7兆円、約20兆円、約150兆円など、さまざまな団体・専門家によるさまざまな試算がこれまでに出されてきた。
どの数値が実態に近いかは経済効果をどの範囲で捉えるかなどにもよるが、そもそも期待したようなプラスの効果を本当に得られるのだろうか。
五輪に関してよく指摘されるのが、開催にあたって競技施設などを整備したはいいが、閉幕後、利用の少ない施設の維持費が大きな負担になるというものだ。だが、社会全体で抱えることになるこの「負の遺産」以外にも、想定されるマイナス影響はある。
例えば、中小企業に対する影響だ。企業数では日本全体の99%、従業員数でも日本全体の7割を占める中小企業にとって東京五輪は、大した経済効果をもたらさない、あるいはマイナスの効果をもたらすイベントになる可能性だってあるのではないか。
その理由を3つピックアップしてみると――。
1)東京ビッグサイト封鎖
「展示会は、中小企業の売上に不可欠!」
これは今年5月、日本展示会協会の総会で壇上に掲げられたメッセージ。各国から五輪取材に集まるメディア関係者のためのプレスセンターが東京ビッグサイトに設置される予定で、それが中小企業の経営を危うくするというのだ。
東京ビッグサイトといえば、多種多様な業界の展示会から50万人を集客するコミックマーケット(コミケ)まで、年間300近いイベントが開かれる日本最大の見本市会場だ。それがプレスセンター設置のため、2019年4月から展示会に使えるスペースが段階的に縮小され、2020年11月までの20カ月間、制約を受ける。
当初は2020年4~10月は完全に使えなくなる計画だった。日本展示会協会が署名活動を展開するなど反対の声が相次ぎ、施設側と五輪組織委員会が軽減策を講じた結果、現時点では五輪期間中も使用できる仮説展示場を作るということになっている。ただし、面積は東京ビッグサイトの4分の1に過ぎない。
展示会が開催できないだけで中小企業が危機にさらされるとは大げさにも思えるが、営業機会が失われることで約1兆2000億円の売り上げが消失すると日本展示会協会は試算しており、倒産する企業も出てくると懸念している。
同協会の石積忠夫会長は5月の総会で、「展示会は中小企業や零細企業の命。この20カ月の間に企業が疲弊してしまったら、日本にとって元も子もない」と語ったという。
東京モーターショーがかつての影響力を失い、上海にその地位を奪われてしまったことに顕著だが、今や展示会は国際競争にさらされている。
日本展示会協会や出展企業側からすれば、海外からも注目(とバイヤーたち)を集め商談につなげるためには、広い会場と多くの出展企業が必要だ。仮設展示場や近隣のパシフィコ横浜では狭すぎ、幕張メッセにも五輪組織委員会から使用要請が出ていて、東京ビッグサイトの代わりになる場所はないのだという。
2)東京一極集中の加速
五輪を開催するのは東京だが、東京ビッグサイト問題が影響するのは、地方も含む全国の中小企業。地方があおりを受けるという意味では、東京一極集中の問題も看過できない。
人口や資本、経済活動など、あらゆるものが東京圏に集中するのが東京一極集中だ。これにより地方衰退に拍車がかかると警鐘を鳴らす声は多い。そして地方経済においては、東京圏よりも中小企業の存在が大きい。
極端な例だが、総務省「平成26年経済センサス‐基礎調査」によれば、最も大企業数が少ない県のひとつである島根県(26社)では、県内全従業員のうち大企業の従業員が占める比率はわずか7.7%。一方、東京都には4942社の大企業があり、都内全従業員の57.9%が大企業の従業員だ。地方経済を語ることは、地方の中小企業を語ることに等しい。
【参考記事】大阪と東京に生まれた地域政党の必然と限界