東京五輪が中小企業に及ぼすマイナス影響
山崎治「オリンピックの経済効果を地方にまで波及させた英国 ―東京オリンピックに対する懸念の解消に向け―」(『レファレンス』2015年4月号)は、2012年ロンドン大会の経済効果は地方にまで及んだとする論文だが、その前提として、東京五輪の開催を否定的に捉える意見が多数あることを紹介している。
挙げられている意見は、「東日本大震災の被災地の復興の遅れに対する懸念」や、「東京一極集中を更に進め、地方との格差が広がることに対する懸念」など。実際、東北復興への悪影響については、建設労働者や建設資材が東京に流れ、東北の被災地に回らなくなっている事例が多数報じられている。
地方との格差拡大についてはどうか。関西学院大学経済学部の小林伸生教授(専門は産業クラスター、中小企業、新規開業・成長要因分析)も、1964年の前回大会ほどのインパクトはないだろうが「東京五輪が東京一極集中をさらに加速させる懸念はある」と言う。
とはいえ小林は、財政面の制約を考えると、東京に一極的に集中投資されることには一定の合理性があり、波及効果の総量も大きくなると指摘する。ただし、「一極集中投資の場合は、波及効果が現れる地域も、ある程度、東京圏と連坦した地域になる」。
3)外食産業への経営的打撃
一方、五輪開催を見据えて進められている、ある"インフラ整備"が、中小企業を中心に打撃を与えるのではないかと懸念されている。国では厚生労働省、都では与党・都民ファーストの会が制定を目指している受動喫煙防止規制だ。
世界保健機構(WHO)とIOCが「たばこのないオリンピック」を推進していることが背景にあり、確かに日本は受動喫煙防止対策が遅れていると度々指摘されてきた。ただ、特に外食産業には経営的な影響が大き過ぎると、議論になっている。
当初の厚労省案、さらに9月8日に発表された東京都の案では、面積30平方メートル以下のスナックやバーを除き、飲食店は屋内禁煙(喫煙専用室の設置は可能)。また、都は5万円以下の罰則を規定し、除外の条件としても、従業員を雇用しない店と全従業員が同意した店のみとする、未成年の立ち入りを禁止するなど厳しい内容が報じられている。
外食産業には中小企業、なかでも個人経営の店が極めて多い。厚労省案どおりの規制が制定されれば、外食産業全体で約8400億円のマイナス影響が出るとの調査結果もあり、業界団体は今年1月、緊急集会を開いて規制反対を表明した。
外食産業で約20年の経験を持つ東京・多摩地域のラーメン店店長も「(特に)ゆっくり食事をしながら飲むスタイルである居酒屋には大打撃になる。個人的には反対だ」と言う。
実は厚労省はこれまで、中小企業に助成金を出して分煙化を推進してきた。喫煙室や屋外喫煙所、換気設備(飲食業、宿泊業のみ)を設置する際、上限を200万円とし、経費の2分の1を助成するという制度だ。今後、受動喫煙防止のルールが変われば、飲食店がこの助成制度を使って設置した設備が無駄になってしまう可能性がある。
となれば外食産業の中小企業は、振り回されるばかりとなってしまうのか。
【参考記事】日本から喫煙できる飲食店がなくなる――かもしれない?
泣いても笑っても、あと3年。
五輪開催に向け、経済産業省の関東経済産業局では地域活性化戦略プランを検討し、東京都では「中小企業世界発信プロジェクト」を策定。行政が中小企業のサポートに乗り出していることも確かだ。当然ながら、中小企業が享受できるプラスの経済効果もあるだろう。
しかし、誰もが等しく分け前に預かれるわけではなく、バラ色の東京五輪になるとは限らない。特に中小企業にとっては――。
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