最新記事
シリーズ日本再発見

東京五輪が中小企業に及ぼすマイナス影響

2017年09月15日(金)16時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

山崎治「オリンピックの経済効果を地方にまで波及させた英国 ―東京オリンピックに対する懸念の解消に向け―」(『レファレンス』2015年4月号)は、2012年ロンドン大会の経済効果は地方にまで及んだとする論文だが、その前提として、東京五輪の開催を否定的に捉える意見が多数あることを紹介している。

挙げられている意見は、「東日本大震災の被災地の復興の遅れに対する懸念」や、「東京一極集中を更に進め、地方との格差が広がることに対する懸念」など。実際、東北復興への悪影響については、建設労働者や建設資材が東京に流れ、東北の被災地に回らなくなっている事例が多数報じられている。

地方との格差拡大についてはどうか。関西学院大学経済学部の小林伸生教授(専門は産業クラスター、中小企業、新規開業・成長要因分析)も、1964年の前回大会ほどのインパクトはないだろうが「東京五輪が東京一極集中をさらに加速させる懸念はある」と言う。

とはいえ小林は、財政面の制約を考えると、東京に一極的に集中投資されることには一定の合理性があり、波及効果の総量も大きくなると指摘する。ただし、「一極集中投資の場合は、波及効果が現れる地域も、ある程度、東京圏と連坦した地域になる」。

3)外食産業への経営的打撃

一方、五輪開催を見据えて進められている、ある"インフラ整備"が、中小企業を中心に打撃を与えるのではないかと懸念されている。国では厚生労働省、都では与党・都民ファーストの会が制定を目指している受動喫煙防止規制だ。

世界保健機構(WHO)とIOCが「たばこのないオリンピック」を推進していることが背景にあり、確かに日本は受動喫煙防止対策が遅れていると度々指摘されてきた。ただ、特に外食産業には経営的な影響が大き過ぎると、議論になっている。

当初の厚労省案、さらに9月8日に発表された東京都の案では、面積30平方メートル以下のスナックやバーを除き、飲食店は屋内禁煙(喫煙専用室の設置は可能)。また、都は5万円以下の罰則を規定し、除外の条件としても、従業員を雇用しない店と全従業員が同意した店のみとする、未成年の立ち入りを禁止するなど厳しい内容が報じられている。

外食産業には中小企業、なかでも個人経営の店が極めて多い。厚労省案どおりの規制が制定されれば、外食産業全体で約8400億円のマイナス影響が出るとの調査結果もあり、業界団体は今年1月、緊急集会を開いて規制反対を表明した。

外食産業で約20年の経験を持つ東京・多摩地域のラーメン店店長も「(特に)ゆっくり食事をしながら飲むスタイルである居酒屋には大打撃になる。個人的には反対だ」と言う。

実は厚労省はこれまで、中小企業に助成金を出して分煙化を推進してきた。喫煙室や屋外喫煙所、換気設備(飲食業、宿泊業のみ)を設置する際、上限を200万円とし、経費の2分の1を助成するという制度だ。今後、受動喫煙防止のルールが変われば、飲食店がこの助成制度を使って設置した設備が無駄になってしまう可能性がある。

となれば外食産業の中小企業は、振り回されるばかりとなってしまうのか。

【参考記事】日本から喫煙できる飲食店がなくなる――かもしれない?

◇ ◇ ◇

泣いても笑っても、あと3年。

五輪開催に向け、経済産業省の関東経済産業局では地域活性化戦略プランを検討し、東京都では「中小企業世界発信プロジェクト」を策定。行政が中小企業のサポートに乗り出していることも確かだ。当然ながら、中小企業が享受できるプラスの経済効果もあるだろう。

しかし、誰もが等しく分け前に預かれるわけではなく、バラ色の東京五輪になるとは限らない。特に中小企業にとっては――。

japan_banner500-season2.jpg

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアとハンガリー、米ロ首脳会談で協議 プーチン氏

ビジネス

HSBC、金価格予想を上方修正 26年に5000ド

ビジネス

英中銀ピル氏、利下げは緩やかなペースで 物価圧力を

ワールド

米ロ首脳会談、2週間以内に実現も 多くの調整必要=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中