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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
ウィキリークス「幻の逮捕状」の本当の怖さ
「われわれは『汚い罠』を警告されていた。これがその第1弾だ」――民間の内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者、ジュリアン・アサンジ(39)がツイッターで訴えた言葉は、なにやら巨大な陰謀を感じさせる。
アフガニスタンでの戦争に関する膨大な機密文書を暴露して議論を呼んでいるウィキリークスのアサンジに8月21日、スウェーデンの検察当局が逮捕状を請求したことが報じられた。容疑はレイプと痴漢行為だ。スウェーデン人の女性2人からの告発があったという。
ところが当局はその数時間後、逮捕状を取り下げた。担当検事による逮捕状の請求を上司が精査した結果、「レイプ容疑の根拠がない」と判断したようだ。痴漢容疑に関しては、まだ容疑を検討中だとの報道もある。
機密情報の暴露で米当局から目をつけられるオーストラリア人のアサンジに、なぜスウェーデンが逮捕状を? どうやら彼が直前の8月中旬、講演でスウェーデンのストックホルムなどに滞在していたのと関係があるらしい。同国の新聞2紙は、告発した女性2人はスウェーデンで働くウィキリークスのスタッフだとも報じている。
アサンジはこの一件に猛反発。告発には「まるで根拠がなく」、このタイミングで逮捕状が出されたことは「深刻な妨害行為」だと訴えている。ウィキリークスは近々、アフガニスタンの戦争に関してさらなる機密情報の暴露を予定していた。アサンジによれば、ウィキリークスの信頼性を揺るがそうとする「敵」が罠をしかけようとしていることは以前から警告されていて、その忠告の中には「セックストラップ」も含まれていたという。
アサンジにとってさらにショックが大きいのは、逮捕状を出したのが他ならぬスウェーデン当局だったこと。彼は同国をウィキリークスと自らの生活の拠点にすることも考えていたという。その理由は、報道の自由が法律によって強く守られている国だからだ。確かに、世界の国々の報道の自由度を調査しているフリーダムハウスの09年の発表によると、スウェーデンの順位は11位(オーストラリアは22位、アメリカは18位、ちなみに日本は21位)。報道の自由に関する「法律的」な環境は世界第2位と高レベルだ。スウェーデンの新聞Adtonbladetは彼をコラムニストとして採用することで合意していた。そうすれば同国の法律の下、彼の報道の自由は守られるわけだ。
米国防総省の報道官は8月22日、今回のスウェーデンでの告発に米当局が絡んでいるとの憶測を「馬鹿げている」と一蹴した。アサンジの言うところの「敵」が誰なのか、今回の一件の背後に何があるのかは、今のところわからない。だが、事の真相やその重要度はともかく、一度世間に暴露された情報がいかに大きな影響力を持って一人歩きしていくか、という怖さは、誰よりもアサンジがよく知っているに違いない。
――編集部・高木由美子
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