コラム

「ナチス軍帽」写真流出で極右候補が選挙撤退...それでも苦戦するマクロン、やはり「無謀な賭け」は失敗に終わる?

2024年07月05日(金)16時50分

マクロンの賭けとは

マクロンの賭けとは何か。一言でいえば、支持率低迷を逆転する手段として、極右台頭で高まる危機感を利用して議会解散・総選挙に打って出たという意味だ。

そもそもマクロンが6月9日、議会解散・総選挙を発表したきっかけは、同日行われた欧州議会選挙で、各国の極右政党がそれまでになく議席を増やしたことだった。

極右台頭に各国政府は危機感を強めている。マクロンは議会解散にあたって「誰が多数派かを明らかにする」と主張し、極右の勢いを止めるためと強調した。

他のヨーロッパ諸国の首脳と比べてもマクロンが極右台頭に神経を尖らせることは不思議でない。過去2回の大統領選挙でマクロンは、国民連合のルペン候補と一騎討ちを演じてきたからだ。

しかし、マクロンの決定はいわば過剰反応とも呼べるものだった。躍進したとはいえ、欧州議会に占める極右政党の議席は全体の20%程度にとどまるからだ。

マクロンは墓穴を掘るか

だからこそ、解散・総選挙という選択は多くの欧米メディアで驚きをもって迎えられ、そのなかで「マクロンが極右台頭をむしろ利用している」という観測も当初からあった。

仏紙ルモンドは解散の直後、政権関係者の話として、マクロンは欧州議会選挙投票日の数週間前から解散・総選挙を計画していたと報じた。

大統領官邸はこれを否定しているが、そうだったとしてもおかしくないほどマクロン政権が追い詰められていることは確かだ。

インフレなど生活不安を背景に、政府支持率は低迷している。例えばIPSOSによると、マクロン再選直後の2022年5月に42%だった支持率は、2024年6月には28%にまで下がった。

とすると、「マクロンがこのタイミングで解散・総選挙にあえて踏み切ったのは極右への危機感を利用して政権基盤を強化するため」という説は信ぴょう性を帯びてくる。

だからこそ、マクロンの決定は “無謀な賭け” とも呼ばれた。ベルギー最大の仏語紙Le Libreはマクロンを “手負いの政治的動物” と評している(生存本能のみに従っているというニュアンス)。

もしこの観測が正しければ、第2ラウンドで国民連合が勝利した場合、マクロンは墓穴を掘ったことになる。フランスのみならずヨーロッパの行方にも大きな影響を及ぼす、運命の第2ラウンドは7月7日に行われる。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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