コラム

電気自動車「過剰生産」で対立するG7と中国──その影にジンバブエのリチウム鉱山開発ブーム、現地でいま何が?

2024年06月20日(木)20時55分

「中国はかつてのヨーロッパと同じ」

そのため中国企業はジンバブエのリチウム開発を半ば独占しているわけだが、現地では不安や懸念も表面化している。

国際NGOグローバル・ウィットネスなどは、ジンバブエにある中国のリチウム鉱山で児童労働、環境への配慮の不足、超過労働などの法令違反が頻発していると報告する。

また、大規模なリチウム鉱山開発は近隣住民とのトラブルも招きやすいが、中国企業が現地有力者を買収して住民を黙らせる、立ち退かせるといった事例も報告されている。

こうした背景のもと、中鉱資源集団が所有するBikitaのリチウム鉱山では昨年6月末、会社に雇われた “警備員” が現地人を銃殺する事件まで発生している。

資源開発をめぐるこうした問題は中国だけのものではないが、その規模とスピードが際立つだけに中国企業によるリチウム開発では特に目につく。


ジンバブエ人研究者タピワ・ンハチ氏は「中国のやり方はかつてアフリカの資源を持ち出していたヨーロッパの植民地主義とほとんど同じ」と述べる。

こうした批判を現地の中国大使館は全面的に否定し、「外国人嫌悪とフェイクの産物」と主張する。

ただし、ジンバブエではリチウム開発ブームが訪れる以前にも、中国人経営者が現地人に指示を徹底させるため日常的に銃で脅していた事件が発生し、裁判で有罪が確定したこともある。

それでも中国によるリチウム開発が止まることはなく、その行方がクリーンエネルギーをめぐるハイテク覇権競争にも影響する公算も高い。

とすれば、欧米は今後、リチウム開発のチャンスを諦めてでもあくまで人権問題を理由にジンバブエ制裁を継続するのか、それとも中国との対抗のために人権の旗を静かに下ろすのかの二択を迫られるとみられる。そのどちらに転ぶにせよ、ジンバブエのリチウム鉱山をめぐる人権侵害が当面改善の見込みがほとんどない点では変わらないのだが。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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