コラム

電気自動車「過剰生産」で対立するG7と中国──その影にジンバブエのリチウム鉱山開発ブーム、現地でいま何が?

2024年06月20日(木)20時55分

先進国が出遅れる理由

これに対して、もちろん先進国企業の活動もゼロではなく、例えばオーストラリア企業Metal Groveもジンバブエでリチウム開発に参入している。

しかし、それでも先進国には出遅れが否めない。

その最大の理由は、欧米が2000年代からこの国に経済制裁をしいてきたことにある。

ジンバブエでは1999年、白人所有地を政府が補償なしで収用できる法律が可決した。

19世紀の植民地時代に入植したイギリス人などの子孫は人口の1%程度だが、ジンバブエ独立後も耕作可能地の半分近くを所有し続けてきた。黒人中心のジンバブエ政府は、これを取り上げてかまわないという法律を作ったのだ。

この問題はいわば植民地支配の遺産と呼べるが、白人財産の没収という事態を受けて、米英など欧米各国はジンバブエに対する経済制裁を発動した。

それと入れ違いのように、ジンバブエに急速に浸透したのが中国企業だった。

その結果、IMFのデータによると、ジンバブエの輸出額に占める中国向けの割合は8.9%(2022年)を占め、国別で最多である(輸入は17.9%)。

アメリカはジンバブエに向かうか

欧米とジンバブエの関係には変化の兆しもある。

ジンバブエ政府は欧米との関係改善を目指して2020年、財産を没収した白人に総額35億ドルの補償金を支払うことを約束した。これを受けて米バイデン政権は今年3月、2003年から続けた経済制裁の多くを解除した。

その前後からアメリカ企業の投資も増えている。ジンバブエ政府によると、2023年にアメリカから流入した対外直接投資(FDI)は1億7520万ドルにのぼった。

とはいえ、アメリカの大々的な参入には限界もある。制裁が全面的に解除されたわけではないからだ。

バイデン政権はジンバブエ政府による人権侵害などを問題視し、ムナンガグワ大統領やその側近に対する資産凍結といった制裁を続けている。

ところで、これらの政府要人のほとんどは、リチウムをはじめ鉱物資源の開発を行う企業の経営などにかかわっている。

そのため、たとえ制裁が政府要人へのピンポイントのものでも、欧米の主要国がジンバブエで資源開発にかかわるハードルは高いままなのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

加ルルレモン、通期業績見通しが予想下回る 米関税影

ワールド

ベネズエラ野党指導者マチャド氏、セラウィーク出席へ

ワールド

イラク政府とクルド人自治区、パイプライン経由の原油

ワールド

仏独首脳、危機に瀕する戦闘機開発計画巡り協議へ=関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    「目のやり場に困る...」グウィネス・パルトロウの「…
  • 10
    戦争反対から一変...湾岸諸国が望む「イランの脅威」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 8
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story