欧州議会選挙で極右政党がかつてない躍進──EUが恐れる3つの悪影響
記者会見に臨む独AfDアリス・ワイデル共同代表(6月10日) Annegret Hilse-REUTERS
<極右政党の存在感が増したことで考えられる懸念とは>
・欧州議会選挙で極右政党が躍進し、かつてなく存在感を高めたことは、ヨーロッパ各国の政府にとって無視できないインパクトを秘めている。
・極右政党はEUに懐疑的で、その声が大きくなって各国ごとの裁量が強くなれば、外部から見て “一つの市場” の魅力が失われることになりかねないからだ。
・これに加えて、極右政党が自由や人権に関するヨーロッパのブランド価値を引き下げないか、あるいは中ロの影響力が増すのではという懸念もある。
かつてないスケールの右傾化
EUの立法機関にあたる欧州議会の選挙が6月9日に実施された。各加盟国には人口に応じて議席が割り当てられ、議員は各国ごとの直接選挙で選出される。
今回、最大の焦点は極右政党がどれだけ議席を伸ばすかだった。
極右政党の多くは移民・難民の受け入れ制限、加盟国を統制するEUルールの緩和、同性婚反対などを掲げている。
こうした論調はリーマンショック(2008年)、シリア難民危機(2015年)、新型コロナ感染拡大(2020年)、ウクライナ侵攻(2022年)などによって社会不安が広がり、社会の右傾化が進むなかで段階的に支持を増やしてきた。
今回の選挙で、いずれも極右政党の会派であるEuropean Conservatives and Reformists(ECR)は720議席中73議席、Identity and Democracy(I&D)は58議席を獲得した。それぞれ前回2019年から4議席、9議席の増加だった。
ドイツのための選択肢(AfD)など、こうした会派に参加していない極右政党もあり、それらが約30議席を獲得した。
以上を合計すると約150にのぼるが、それでも議席全体の約20%にとどまる。また、一口に極右政党といっても一枚岩ではない。
しかし、極右政党の存在感がかつてなく大きくなったことは確かで、そのうえ実際の影響力は議席数以上のものがあるとみた方がよい。 “極右” とまでは認知されない主流派の保守系政党のなかにも、極右政党の主張に親近感を抱く議員や支持者が少なくないからだ。
例えば、イギリスで2016年に行われたEU離脱の賛否を問う国民投票も、当時の保守党キャメロン政権が選挙協力と引き換えに、イギリス独立党(UKIP)などの要求を受け入れて行われたものだった。
“5億人市場” の魅力は保たれるか
極右政党の躍進を受けて、フランスのマクロン大統領は「明白な多数派を示す必要がある」と議会解散・総選挙に踏み切るなど、各国政府は警戒を強めている。
そこには主に3つの懸念がある。
第一に、共通市場としてのEUの求心力低下だ。
極右政党は各国の独立性を重視していて、そこにはヒトやモノの移動、為替政策、環境対策、教育などあらゆる領域における決定権が含まれる。
その裏返しで極右政党は “EU権限の縮小” でほぼ共通する。
リーマンショック後の経済復興やシリア難民危機などでは、EUの規制・ルールが強すぎて、自国の独立が損なわれているという不満が噴出した。
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