コラム

UNRWA地下にハマスのトンネル網があったとしてもイスラエルの免責にはならない理由

2024年02月14日(水)17時40分
UNRWA本部の地下にある「トンネル」を捜索するイスラエル兵

UNRWA本部の地下にある「トンネル」を捜索するイスラエル兵(2024年2月8日) Dylan Martinez-REUTERS

<「UNRWA解体」を求めるイスラエルの主張に向き合うとき、注意しなければならないポイントが3つある>


・イスラエルはガザにあるUNRWA本部の地下にトンネルがあり、ハマスの司令部が置かれていたと発表した。

・当事者の発表だけに正確性には留保が必要だが、仮に事実だったとしてもイスラエルが求める「UNRWA解体」にはリスクが大きすぎる。

・さらに重要なことは、UNRWAに問題があったとしても、それがイスラエルの免責にはならないことである。

「トンネル」の衝撃

イスラエル軍は2月11日、ガザにあるUNRWA(国連パレスチナ難民救済機構)の建物の地下にハマスのトンネルがあったと発表した。

記者団に公開されたトンネルはコンクリート製で地下およそ18メートルと深く、距離は700メートルに及んだ。いくつもの部屋があり、トイレもあったという。

イスラエル軍はこれが「ハマスの司令部だった」と主張している。

イスラエルの空爆を避けるとともに、移動や物資搬入を容易にするため、ハマスがガザにトンネルを作っていることは以前から指摘されていた。こうしたトンネルが合計500キロ以上にも及ぶという推計もある。

そのトンネルがUNRWA本部の地下にあったと発表したイスラエルは、かねてから「UNRWAがハマスを支援している」と非難し、「UNRWA解体」を要求してきた。

さらにイスラエル政府は1月末、「UNRWA職員が10月7日のハマスによる奇襲攻撃に関与した」と発表し、これに呼応して日米を含む先進各国の多くがUNRWAへの拠出金を停止した。

これに関連してUNRWAは12人の職員を解雇していた。

「トンネル」は、こうしたイスラエルの主張を裏付ける証拠と位置づけられている。

これに関して、UNRWAは「10月12日以降、建物は無人だったので(イスラエルの言い分を)確認できない」と述べている。また、ハマスは「トンネル」をウソだと批判している。

「トンネル」で注意すべき3点

UNRWAにハマスが深く食い込んでいたとすれば、改革の必要があることは疑いない。しかし、イスラエルの主張にも注意が必要で、そこには3つのポイントがある。

第一に、一方の当事者の言い分を鵜呑みにすることはできない。

戦争にプロパガンダはつきもので、イスラエルはこれまでにも疑問の余地の大きい主張を繰り広げてきた(例えば「パレスチナ人は自ら土地を放棄した」のであって「占領」には当たらない、など)。

さらに、そもそもUNRWAはイスラエルにとって目障りな存在だった。

昨年10月以前からガザでは、およそ15年間にわたってイスラエル軍に包囲され、食料、医薬品、電気などの調達が難しい状態が続いてきた。この経済封鎖そのものが国際法に抵触しかねないもので、それを告発してきたのがUNRWAだ。

この背景のもと、ネタニヤフ首相はかねてから「UNRWA解体」を要求してきた。

その意味で、第三者による検証なしに「トンネル」の実態は断定できない。

国連のグテーレス事務総長は2月初旬、UNRWAの実態解明のための委員会を発足させたが、発見された「トンネル」も調査対象になるとみられる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story